愛知県
印刷する本土の中央に位置しており、東京・大阪を結ぶ東海道新幹線の中間点となっている。名古屋からはJR東海道・山陽新幹線、東海道本線を軸に、中央本線、関西本線、高山本線(乗り入れ)が、豊橋からは飯田線が分岐。岡崎から分岐の旧国鉄岡多線は、高蔵寺まで延長されて第三セクター方式の愛知環状鉄道に転換。県内乗客輸送は名古屋鉄道が独占的で、一部を近畿日本鉄道、JRなどが分担している。高速自動車道は、名神・東名高速道路が東京―阪神間に、中央自動車道は長野県に、大阪へは東名阪自動車道が通じ、北陸方面へは東海北陸自動車道、三重方面に伊勢湾岸自動車道が通じる。旧東海道は、国道1号として主要都市を連珠状に結び、長野方面とは153号、19号、151号の3ルートで、北陸とは41号で、三重県方面へは23号で結ばれている。空路は中部国際空港、県営名古屋空港、海運は名古屋港が主軸である。
西部から南部にかけての一帯は平坦で、木曽・庄内の両川が濃尾平野を、矢作川が岡崎平野を、豊川が豊橋平野をそれぞれ形成し、豊橋平野からは渥美半島が伸びており、農業適地。濃尾平野の東側は尾張丘陵からなり、南に伸びて知多半島を形成している。北部から北東部は長野県から木曽山脈が南に伸びて三河高原を形成し、標高1,000mを超える山も少なくない。太平洋、三河湾と接する渥美半島と三河湾、伊勢湾と接する知多半島により海岸線は594kmと長く、沿岸一帯は水産資源に富んでいる。美濃三河高原は人工林地が多い。水系別からは、木曾川流域、矢作川流域、豊川・天竜川流域に3区分される。
大化前代には尾張、三河、穂の3国に分かれていたが、大化改新で尾張、三河の2国となり(三河と穂の2国を合わせて三河1国とした)、廃藩置県により、1872年(明治5)に尾張と三河を一体化して愛知県が誕生した。「あいち」の地名は『万葉集』巻3の高市連黒人(たけちのむらじくろひと)の歌「桜田(さくらだ)へ鶴(たづ)鳴き渡る年魚市潟(あゆちがた)潮干(ひ)にけらし鶴鳴き渡る」の年魚市潟に由来し、明治初年、名古屋県の県庁のあった愛知郡から県名にもなった。戦国時代に天下統一した三英傑(織田信長、豊臣秀吉、徳川家康)に関係が深く、越前(福井県)織田庄の出身といわれる織田信長が清洲城主となり、その後、後を継いだ豊臣秀吉は尾張の出身。徳川家康は岡崎城の生まれで、関ヶ原の戦いで豊臣氏に勝利を収めたのち、江戸幕府を開き、300年の太平の世とした。徳川家康は熱田台地上に名古屋城を築き、城下町の核にするため「清洲越」を断行。名古屋城下町が商都として整備されるにつれて人口も増え、明治維新直後には武士の数3万人、全体では8~9万人の町になった。近代・現代は、産業、交通の近代化、文化教育施設の集積も目覚ましく、産業では農業、伝統工業の近代化、重化学工業の発達、交通上は鉄道・道路・港湾の整備が進み、第二次世界大戦後は都市計画も近代都市への構造改革を目ざして、広く整然とした街路計画、平和公園(墓地を統合した公園)の建設などで全国の戦災復興モデル都市になり、名古屋市は人口226万(2010)の大都市にまで発展。中京圏の中核、中部圏の中枢地域としての役割を果たしてきた。東京、大阪の東西二大都市圏の中間にある第3位の大都市圏を有しているが、歴史上首都としての歴史をもたない県であり、第3位の大都市圏としては国宝、重要文化財などの歴史的な文化財の数が少なく、東西文化の谷間といわれている。尾張藩の城下町として発展した名古屋市は、日本を代表する経済文化都市の一つとなっている。
農業、工業、商業の三者が共生社会を形成していることが特色。豊かな生産緑地を保有しており、施設園芸や畜産(大規模、集団化)、花卉栽培などがおこなわれる。キャベツ、ハクサイ、ダイコン(守口ダイコンなど)、スイカ、また温室トマト、メロンの特産地として知られ、キャベツ、花卉の生産では全国首位。畜産では明治以来養鶏王国といわれている。また、全国生産の過半を占める碾茶(西尾市)の特産地。水産業では、三河湾、伊勢湾などの内海と外海を漁場とする海面漁業、内湾の養殖漁業および内水面養殖が主で、河川はアユ中心の観光的性格が強い。のり類、ウナギ、アユなどの養殖、豊橋市のちくわ、西尾市一色町地区のエビ煎餅(せんべい)等の加工品が有名。工業が卓越し、1977年(昭和52)以降製造品出荷額は全国第1位を占める。自動車工業を主軸とする重化学工業に加えて、在来産業の軽工業もおこなわれる総合型工業県となっており、繊維、窯業、食料品、木工業などの全国的特産地かつ先進地となっている。地域分化も鮮明で、西三河は輸送機器、尾西地域は毛織業、瀬戸市は窯業、東三河は食料品、繊維というように地域による特色化が著しい。また、新しく造成された名古屋港周辺、名古屋港南部(東海市など)、衣浦(半田市、碧南市など)、三河港などの四大臨海工業地域に各種の重化学工業の大工場が集中している。
文化財は、国指定433(うち国宝9)、県指定615があり、国指定のなかでは有形文化財が334と多く、ほかは民俗文化財18、史跡・名勝・天然記念物66である(2019)。東京圏、関西圏に比べると国宝などの数は少ないが、庶民生活に密着する民俗文化財は、東京、京都をしのぎ、しかもよく保存、伝承もされている。文化・体育施設は、博物館等75、公民館455、公立図書館82、体育館169、陸上競技場28など(2001)。名古屋市の中心に1992年に開設された県立愛知芸術文化センターは、日本初の本格的オペラが上演できる2500席の大ホールのほか、中小ホール、美術館、図書館、文化情報センターなどを備えた総合施設であり、瀬戸市に1978年にオープンした県立陶磁資料館は陶器の街にふさわしい。民間の施設では、徳川美術館、蓬左(ほうさ)文庫、明治村、和紙展示館などが知られる。県内の自然公園には、三河湾国定公園、北部は高原景観を呈する愛知高原国定公園、天竜奥三河国定公園の他、7つの県立自然公園がある。奥三河は、民俗芸能の宝庫ともいわれ、古い民俗芸能を保持して伝承しており、「花祭」、「田楽」などは原型をいまに伝え、さらに発展させている。農民の豊作祈願行事として生まれた田楽(田峰(だみね)田楽、鳳来寺(ほうらいじ)田楽など)も古式を残し、花祭、田楽はともに国の重要無形民俗文化財に指定されている。祝福芸能としての「万歳」は本県を代表する芸能として知られる。尾張地方には神事芸能としての獅子舞が多い。このほか、山車からくり、火祭りがある。また、綾渡(豊田市)の夜念仏、盆踊(国指定無形民俗文化財)などの提灯がつきものの盆行事や、奇祭といわれる豊作祈願の神事行事が各地でおこなわれている。生活文化としては、名古屋の「きしめん」、尾張の「おうす」、三河の山地地方の「五平餅」など、風土と庶民生活に密着する各地の特産物がある。