わが国では数少ない観光・旅行を専門とする学術研究機関である日本交通公社が、観光資源評価研究はもとより、各種事業に取り組むにあたり大切にしてきた考え方をご紹介します。

観光旅行と観光資源

東京工業大学名誉教授
鈴木 忠義氏

旅することは、人間の本能である

 観光を考える原点は、“人はなぜ旅をするのか”ということ。そもそも観光とは、人間の五感に直接訴えて教授され、人生の喜びや幸福に直結する活動だ。人間に生き続けようとする希望と努力がある限り、そこには喜びの発見と教授があり、それゆえ様々な形で観光やレクリエーション活動が発生する。

魅力ある観光資源は、代替がきかない

 魅力ある観光資源とは、自然や文明の積み重ねによる歴史や文化そのものであり、現代のお金や技術では簡単に創ることのできない、固有性、独自性を持つもの、特に“代替”がきかないということが特徴である。

観光資源に対峙する

 観光旅行は一人ひとりで楽しみ方が異なる。しかし、本物の観光資源には、できるだけ誰にもわずらわされずに静寂の中で一対一で対峙してほしい。その時にこそ、様々な発見が生まれる。そして、事前にその観光資源についてできるだけ情報を準備しておくということも、対峙したときに得る感動の質と量を左右する。

観光地づくりには正論で取り組む

 旅行者の見方とともに、見せ方が大事だ。例えば、山間の神社の麓には門前町があり、そして参道をのぼり、身を清めて本殿を拝むという手順がある。クライマックスにいたるまで、“歩く”という行為を前提にいくつかの準備があるのだ。

国土の土地利用に優先順位がある

 国土計画において、保護・保全すべき対象に優先順位をつけるということは大変重要だ。最も優先して保護・保全すべき対象は「自然生態系保護地域」。そして次が「景観保護観光地域」。その後は「自然レクリエーション地区」、「都市地域」と続き、最後が「産業用地」となる。これを通称「土地利用の“五輪の輪”」といっている。

観光開発は町づくりの総仕上げ

 観光開発は町づくりの総仕上げだと言っている。まずは観光資源を発見し、評価する、そして評価にふさわしい開発の手が加わって初めて観光対象となる。観光事業とは地域の“光”を磨き上げることであり、資源を食いつぶすような開発があってはならない。
 重要なことは、その観光資源は誰のものかということ。わが国を代表する観光資源ともなると、それは国民の財産でもある。日本の宝を預かっているのだという認識が必要だ。

観光資源の見方、見せ方

立教大学名誉教授
溝尾 良隆氏

風景は人間がつくる

 自然は何も言わない。人が自然に接し感動して、素晴らしい風景だという。その風景に多くの人が共感すると、自然の一部が観光対象になり、その風景を見るために、人はわざわざ出かけていくのである。

専門家に風景の見方を学ぶ

 自然の一部が人間によって切り取られ、それが素晴らしい風景といわれるには、湖や山のように、資源の範囲が明確なものは、その対象への感動の度合いを評価しやすいが、農村風景や河川のように広範囲なものは、ふつうの人にはどこが優れているか捉えにくい。北海道美瑛町の農村・農業景観は写真家前田真三が、高知県の四万十川はカヌーリスト野田知佑が、専門的な立場から、風景の見方を一般人に教えたのである。

利益の優先が、観光資源の価値を低める

 観光対象となる資源をよりよく見せるのが大切であるのに、来訪者により近くで見せようと競い合い、逆に観光関連の宿泊施設や飲食施設が利益優先のあまりに観光対象に接近しすぎて、本来の評価を低めている例が多い。

観光資源をどのように見せる、見るか

 どの地点で観光資源を見せるかという、見せ方の問題も重要である。滝であれば、落差の高さ1.5~2倍の距離を滝からとり、滝の中央よりやや下部に観瀑台があるといいと言われる。渓谷は、下流部から上流部に向かって歩くのがよい。上流部に向かって歩くと、川の流れが目線と同じ高さになり、川を中心とした周辺の渓谷の風景がよく見える。

観光資源は、自然、人文、それぞれの要素を含む点を考慮して評価する

 観光資源の評価は、ふつうは自然資源と人文資源とに分けるが、自然資源にも人文資源的要素が入っているし、人文資源にも自然資源的要素が入っている点を考慮して、評価することが重要である。那智の滝は自然資源的評価も優れているが、さらに滝そのものが御神体であると分かれば、那智の滝の奥深さが理解できる。