執筆者 典然

観光関係の調査研究機関をリタイヤして、気儘に日本中を旅するtourist。
「典然」視線で、折々の、所々の日本の佇まいを切り取り、カメラに収めることがライフワーク。「佇まい」という言葉が表す、単に建物や風景だけではない人間の暮らしや生業、そして、人びとの生き方を見つめている。

 前回は安曇野の地形、地名、伝説と神々の奥行きについてレポートしたが、今回は歴史が生む奥行きや安曇野の楽しみ方について触れてみたい。   〇歴史が生む奥行き ① 荘園の形成  この地の耕作地として相応しい平坦部・・・ 続きを読む

〇はじめに  安曇野は、西側に迫る峻厳な北アルプスの山並みと東の筑摩山地に挟まれた盆地状の平坦地が北に向かって奥深く伸びている。その盆地状の地形に北アルプスから流れ出した、数多くの川が扇状地や沖積地を造り、西から東に向か・・・ 続きを読む

 大和路には東大寺、法隆寺、興福寺、薬師寺、唐招提寺など、歴史を積み重ねてきた数多の大寺があり、こうした大寺でじっくり建築技術の粋を集めた建造物や天平文化を反映した仏像群と向き合うのは、大変興味深く面白い。しかし一方では・・・ 続きを読む

 奈良南部、吉野山や高見山は、古くから神聖な山々として信仰を集めてきたが、その根源には奈良盆地の水源地だったこともあったのではないだろうか。そのため、これらの山々の山懐や山里には水に関する神々を祭る神社、史跡が多い。例え・・・ 続きを読む

 日本の川は、大陸の大河と異なり、どの川も山岳地帯から海に一気に流れ出す急流だと言っても言い過ぎではない。李白の「孤帆の遠影碧空に尽き 唯だ見る長江の天際に流るるを」という揚子江を詠んだ漢詩のような大河は見当たらない。当・・・ 続きを読む

 横手盆地は、周辺の山々が遠く、その真ん中を悠々と雄物川が流れ、盆地と言いながら開放的な雰囲気に溢れている。そのなかでも、北部の仙北平野ともいわれる地域は、広大な水田地帯が続く。雄物川はこの辺りで田沢湖から流れ出る玉川と・・・ 続きを読む

 数年前に国の無形重要文化財となっている「毛馬内の盆踊り」を見た。毛馬内は、現在は秋田県鹿角市となっているが、明治以前は長く南部藩の所領で、米代川に沿って立地し、西に向えば大館を抜け能代や男鹿の日本海側、東にたどれば八戸・・・ 続きを読む

〇門前町と重要伝統的建造物群  成田山新勝寺の表参道は、東日本では、もっとも門前町らしい町並みになっていると思う。 JR、京成の成田駅近くから表参道は800mほど穏やかなカーブをとりながら続き、その半分ほどを歩くと、緩や・・・ 続きを読む

 柳田国男は、「境の山には必ず山路がある。その最初の山路は、石を切り草を払うだけの労力も掛けない、ただの足跡であったのであろうが、獣すら一筋の径をもつのである。ましてや人は山に住んでも寂寞を厭い、行く人に追付き、来る人に・・・ 続きを読む

〇江戸期に一変した日本の農業景観   明治初期に東北地方を歩いた、英国の女流探検家イザベラ・バードは、山形県の置賜地方について、「まさしくエデンの園である。『鋤の代わりに鉛筆で耕したかのよう』であり」、コメ、綿をはじめ、・・・ 続きを読む

 〇日本庭園の発展過程   世界各地の名園は、それぞれの民族や国の文化、美意識、自然観、世界観が凝縮されたものといってよいだろう。日本庭園も同様で、京都をはじめ全国に点在する名園といわれるところを訪ね、庭を前にして佇むと・・・ 続きを読む

 東京23区のどの区においても経済政策および都市計画において、観光が重要なテーマのひとつになっている。そのなかで、墨田区では、景観まちづくり像として「水辺と歴史に彩られ、下町情緒あふれる“すみだ風景づくり”」の実現を目指・・・ 続きを読む

 東北を旅していると「奥の細道」に関連する句碑や案内板に頻繁に出合う。観光振興のツール、ストーリー作りにもよく使われている。世界に誇る俳句、古典文学なのだから、当然のことだろう。   芭蕉が「奥の細道」に出掛けたのは、古・・・ 続きを読む

 最近、観光地のストーリー化がしきりに喧伝されている。このこと自体は、観光に奥行きを与え、その土地、土地のアイデンティティを確認する意味からも重要なことと思われる。そのストーリー作りにあたって、自らの観光資源の魅力をどの・・・ 続きを読む

 城や城下町への関心度は相変わらず高い。テレビの旅番組や歴史教養番組でよく取り上げられており、大河ドラマでも城や城下町の場面が数多く設定され、若い女性や外国人にも人気のスポットになっている。そのこともあって、各地で、観光・・・ 続きを読む

 以前、信州の白馬村大出公園近くで奇妙な道祖神に出会った。信州の道祖神は、双体神1基ということ多いが、ここの道祖神は、天鈿女命と猿田彦と思われる神様がそれぞれ1基ずつ並例して立っていた。この形式がそれほど不思議とは思わな・・・ 続きを読む

「高原」という言葉  九州横断道路(やまなみハイウエイ)は、くじゅう連山の北麓を抜けていくが、その途中に飯田(はんだ)高原がある。いくつかの火山に囲まれた傾斜面の高原だ。温泉も点在し、牧場やスキー場、そして別荘地などが広・・・ 続きを読む

〇河口湖  大町桂月や志賀重昂の富士五湖についての評価は、十和田湖と比べて厳しい。富士五湖のひとつ河口湖は、面積で言えば確かに十和田湖の十分の一以下であることから、大町桂月は「大きさについていわば、屈斜路湖、支笏湖、洞爺・・・ 続きを読む

 十和田湖、河口湖、霞ヶ浦の三つの湖は、私にとってはそれぞれ魅力を感じ、昔も今もよく訪れる場所である。ただ、一般的な観光資源として見た場合、その評価や観光客の入込み実績となると実にバラツキが大きい。  このバラツキの要因・・・ 続きを読む

 ローカル線というと、フーテンの寅さんをイメージしてしまう。もちろん、山田洋二監督はそのことを十二分に意識し、ローカル線の駅や車両、あるいは路線を、ストーリーの舞台だったり、大道具だったり、背景だったりと、シリーズの多く・・・ 続きを読む

役行者とは  吉野山の金峯山寺金剛蔵王大権現三体と対峙すると、その威厳ある形相と巨大さに自らの心を見透かされたような気持になり、圧倒されてしまう。この三体の大権現の謂われは、白鳳年間(7世紀後半)に役行者(役小角または役・・・ 続きを読む

 前回は、西の有力な温泉地である、道後、城崎、有馬について触れたが、今回は、関東の伊香保、草津、塩原を文豪たちがどう描いたかを見てみたい。 〇伊香保、草津、塩原  関東の伊香保温泉は、江戸後期から第2次世界大戦前まで、温・・・ 続きを読む

 山形県の北部にある肘折温泉の温泉街に入ると、昔懐かしい感じがする。狭い道の両側にそれほど大きくない旅館が20軒ほど肩を寄せ合うように建ち並び、その間には、お土産屋などの店がいまでもきちんと開いている。温泉街の奥には豆腐・・・ 続きを読む

人間は塔に何を求めているのか  明治末から昭和前半期あたりに活躍した作家、知識人が、関東大震災で失われた「江戸情緒」を追慕する随筆・評論を集めた「失われた江戸を求めて」(古典教養文庫Kindle版)が面白い。明治期に奔流・・・ 続きを読む

 「道」は、人間の営為があって初めて存在する。もっとも獣道は、動物の行動パターンによって出来上がるし、風の道というものもあるが、これは風土、地形が生み出すもので、人間の営為への比喩的表現である。人間にとっての「道」は、自・・・ 続きを読む

 2018年7月21日の朝日新聞の記事に「小京都から独立する観光地」というのがあった。その記事では1985年に27市町で「全国京都会議」という団体が設立され、これまで計63市町が入会したものの、このところ18市町が退会し・・・ 続きを読む

 私たちが旅行に出掛ける目的のひとつとして、「非日常」を体験したいということがよく言われる。旧宿場町がディスティネーションとして選ばれ、人気観光地化されていくことが見受けられるのも、疑似体験として時代をさかのぼることで、・・・ 続きを読む

里の雑木林  私にとって林や森といえば、子供の頃よく登った甲府盆地の北にそびえる帯那山(標高1422m)への沢伝いの登山道がもっとも印象深い。帯那山へは、現在は頂上直下まで林道が通じているが、60年ほど前は武田神社の北、・・・ 続きを読む

 日本の景観を語るとき、全国各地に見られる看板は、すこぶる評判が悪い。東京の新宿や渋谷、そして大阪の新世界、道頓堀などなど、何でもありのゴチャゴチャ感。さらに郊外の観光地に行っても、自然空間の美を頓着なくぶち壊す看板をは・・・ 続きを読む

 前回の「たびれぽ」で、「日本の軒(のき)、庇(ひさし)」が家の中に「暗さ」や「陰翳」をもたらし、それが日本独特の文化を創り上げる一つの要素だったのではないか、ということを取り上げた。今回は、その家の中の「あかり」につい・・・ 続きを読む

日本の建造物に複雑な陰影をもたらしている「軒」と「庇」について、日本各地の“佇まい”をカメラに収めることをライフワークとする典然が、独自の視点で考察します。

時に地域を代表する観光資源ともなる「蔵」の“表情”について、日本各地の“佇まい”をカメラに収めることをライフワークとする典然が、独自の視点で考察します。