[Vol.3]観光資源の見方・見せ方ー湖を例にしてー

 すぐれた景観に接したとき、私たちは思わず、「きれい!」「すてき!」といった声を発する。なぜ、きれいなのか、すてきなのか。すばらしい湖とはなんだろうか。この形容詞言葉の背景となるいくつかの要因をあげてみよう。

 湖の景観に接した旅行者は、まず外観である、①「大きさ」②「形」③「湖水色」④「周囲の景観」から総合的に判断して、感動の声を出しているのだろう。それから、湖に近づいて水の⑤「透明度」と⑥「深さ」を、まじまじと見つめることになる。

 ①から⑥までのそれぞれの要因を検討してみよう。

 ①「大きさ」は、自然資源では大事な要因であり、高い山、水量と落差の大きい滝など規模の大きいのがよい。しかし、湖は大きすぎてはダメで、カスピ海、アメリカ・カナダの五大湖などは、人間の視野をはるかに超えて、全貌をとらえることができない。これらは海だ。日本一の大きさの琵琶湖も大きすぎる。ほどよく人間の視野に収まる程度の大きさ、十和田湖とか摩周湖くらいの大きさがよいのでは。
 一方、あまりにも小さすぎると、池や沼であって、湖らしくない。例外的が榛名湖である。面積1.2km2、周囲4.8kmと湖のなかでは小さいほうであるが、実際に湖畔に立ってみると小ささを感じない。この程度の大きさまでは問題ないのでは。

榛名湖

 ②「形」とは、湖が屈曲に富み変化があるとか、真ん丸で面白い(倶多楽湖)とかで評価される。屈曲度は肢節量で計算できる。ある湖の面積を同じ面積の円に直して、その円周で、該当の湖の周囲を割る。十和田湖は中山・雄倉の両半島が湖に突き出し、湖に変化を与えている。あまりにも屈曲が多過ぎると、磐梯高原の檜原湖のように、全体が見えなくなるので、ほどほどの屈曲さが望ましい。

 ③「湖水色」。具体的に色をあらわすのに、湖沼学ではフォーレルⅠ号からⅪ号までで分類する。磐梯高原の五色沼のように、特異な色の湖は評価が高い。

 ④「周囲の景観」。湖の成因から、カルデラ湖や火口湖は火山の噴火によってできたものであり、湖の周囲が山に囲まれて、山水一体となった美しさを作り出す。火山の噴火による堰止湖も背後に山が存在する。北海道の大沼と駒ケ岳、中禅寺湖と男体山、芦ノ湖と箱根山など、日本には周囲の景観と一体となった湖が多い。その点、標高の低い潟湖などは全体的に評価が低くなる。

中禅寺湖と男体山

芦ノ湖と箱根山

 ⑤「透明度」。かつて摩周湖の透明度41.6mは世界一と言われ、感心して摩周湖を眺めたものだった。しかし今は28m。澄んでいてきれいな湖水は評価されるが、透明度が20mでも10mでも、湖の評価にはその差は現れない。

 ⑥「深さ」。田沢湖が日本で最深でも、評価にはさほど影響を与えない。

結局、外観のすばらしさで評価して、透明度が高く、深さのある湖は+αの評価を加えることになる。
 また、⑥「その他」として、共通の要因でない、阿寒湖のまりも、能取湖のアッケシソウ、サロマ湖のワッカ原生花園やアザラシなどがある湖は、評価にさらにプラスを与える。

 つぎは「見せ方」について。湖を見る「視点の場」があるかどうかが重要になる。評価の高い湖には、素晴らしい視点の場、展望所が用意されている。摩周湖西岸の第一展望台と第三展望台、中禅寺湖の明智平・中禅寺湖展望台、箱根の十国峠・日金山などがその例だ。十和田湖には数多くの展望所があり、湖のさまざま様相をみせてくれるが、南からアプローチして、発荷峠で突然眼下にみえる十和田湖には圧倒される。三方五湖の変化ある五つの湖の組合せは、標高400mの梅丈岳から眺望できるからこそ分かるのであって、これが平地の湖畔で見るなら、五湖の全貌を見ることができないから、三方五湖にはそれほどの感動はできなくなるだろう。

十和田湖

三方五湖(水月湖)

 以上のように、優れた資源をさらにいっそう魅力あるような見せ方をするのが大事であるが、その逆に、魅力を減じてしまうのは問題である。
 忍野八海は、富士山を背景に小さな湧水の池が8つあり、画家や写真家が好んだ風景であった。しかし近年、観光客も増え開発も進み、そうした風景を見ることは難しい。

 それぞれの資源の魅力は何かを考えて、魅力をひきだすような、全体の設計を考えることが大切だ。

このたびれぽで紹介している資源
筆者

溝尾 良隆

立教大学名誉教授。理学博士。公益財団法人日本交通公社評議員。1941年東京都生まれ群馬県育ち。
東京教育大学理学部地理学専攻卒業後、株式会社日本交通公社外人旅行部に入社。その後、財団法人日本交通公社へ移籍。
1989 年立教大学社会学部観光学科教授。観光学部教授、観光学部長、日本観光研究学会会長などを歴任。
著書に『改訂新版 観光学:基本と実践』(古今書院,2015 年)、『ご当地ソング、風景百年史』(原書房,2011 年)、『観光学と景観』(古今書院,2011 年)、『観光学の基礎』(原書房,2009 年, 共著)、『観光事業と経営:たのしみ列島の創造』(東洋経済新報社,1990)など多数。

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