[Vol.6]観光資源の見方・見せ方-神社を例にして-

 寺院と神社とは評価する対象がやや異なる点があるので、ここでは神社について述べ、寺院については、神社を参考にして、皆さんにもぜひ見方や見せ方を考えていただきたい。

 さて、神社をアプローチ順に見ていこう。

 

①鳥居

 鳥居は、人間が生活する俗界から神の聖域に入る結界の地点にある。規模の大きい神社では、一の鳥居、二の鳥居、三の鳥居と、だんだんと聖域に近づくように設計されている。

 宮島の厳島神社(広島県)は、海中に鳥居がある。参道はないが、ここから厳島神社の境内に入ったことを知らせる。鳥居から先も神社に続く海。神社の20数棟が、延べ273mにもなる東廻廊と西廻廊とで結ばれて横に奥に広がり、弥山の麓にすっぽりとおさまっている。赤の鳥居、青い海、朱塗りの神社、背後に緑の弥山と色彩が美しい。鳥居の無い厳島神社を想像すれば、いかにこの鳥居が重要な役割を果たしているか理解できよう。

 結界と言えば、女人禁制の大峰山(奈良県)には、「従是女人結界」の碑と女人結界門がある。

 外国人に人気の高い伏見稲荷大社(京都府)は、昔から、多くの鳥居をくぐりながら参拝することで知られている。鳥居が参道になり評価のメインになっている。その他にも、庭園に数多くの鳥居を組入れて設計した青森県の高山稲荷神社や、高い地点から海に向かってまるで将棋倒しのように鳥居が立ち並んでいる山口県の元乃隅稲成神社などが、人気を集めている。

 

②参道

 神社の立地が、山腹(金刀比羅宮、出羽三山神社など。なお、東京都区部では武蔵野台地の末端)にあるか、平地(大宮氷川神社、明治神宮)にあるかに留意する。
 高所にあると参道は石段になり、登る大変さがあるが、登るにつれてしだいに気分が高まり、社殿に接したとき、到達した満足感が大きくなる。

 香川県の金刀比羅宮(愛称:こんぴらさん)は、飲食店・土産物店、旅館など、鳥居前町の雰囲気を味わいながら、「札の前」に来る。ここから、本宮までの785の階段は大変であるが、坂町の両サイドに約70軒ある土産物店を冷やかしながら、大門までゆっくり上っていく。大門をくぐると5人の露天商こと「五人百姓」が昔から特別の許可を受けて加美代飴を販売している。やっとの思いで達した本宮からの眺望はすばらしく感動する。(奥社へ行く人には、さらに583段の石段が待ち受ける)。高揚した気分のまま、帰途は、別ルートで宝物館、学芸参考館、海洋博物館、日本最古の芝居小屋金丸座を訪れるとよい。

 山形県の出羽三山神社は、宿坊のある手向(とうげ)から随神門をくぐると、国の特別天然記念物の杉並木になる。杉木立が山頂までおおう。すぐに天地金神社があり、祓川と川にかかる朱塗りの橋を渡る。須賀の滝も見える。ややあって国宝五重塔が杉木立の中に見える。日本一の階段数2446段は大変と登る前には思うが、見どころが多いうえに、傾斜はゆるく、階段の歩幅間隔も小さく、意外に足腰への負担を感じないで神社に到達する。時間があれば、芭蕉句碑に立寄ったり、途中の茶屋で、庄内平野を眺望しながら一休みする。こうしてゆっくりと登っていき、出羽三山神社に到達する。感激もひとしおである。帰りは車で車道から戻ってもよいが、同じ道でも景色が違って見えるので、ゆっくりと下っていくのをすすめたい。

 新宮市の神倉神社(和歌山県)は、急傾斜の538段の石段を登りつめなくてはならない。ここはきついが到達しそこに待ち受けていたものは・・・(③へ)。

 平地に立地している寺社の場合、参道の周囲が樹木におおわれ、うっそうとした雰囲気を醸しだしているならば、周囲の生活の場である俗が見えなく、聖なる地に入ったという気分になる。原宿(東京都)が人気あるのは、ケヤキ並木と幅広い歩道があるためで、そのすぐれた雰囲気が評価されて、魅力ある店が集まったからである。この並木は、明治神宮ができた時に絵画館を起点につくった明治神宮への参道で、その沿道にケヤキを植えてできたのである。

平地に立地している神社の例:大宮氷川神社

 変わったところでいうと、鎌倉の鶴岡八幡宮(神奈川県)は、二の鳥居からの「段葛(だんかずら)」という参道が三の鳥居まで続く。段葛はうっそうとはしていないがサクラ並木になっていて、その両サイドに車道があり、中央の段葛が車道よりも一段と高く、参道が明確である。

 伊勢神宮(三重県)や出雲大社(島根県)のように、昔から集客力のある神社では、賑やかな鳥居前町が発達する。徒歩の時代や鉄道の時代までは賑やかで楽しい参道になっていたが、自動車の時代になると、神社に接して駐車場ができて参道を歩く人が減ってしまい、さびれてしまうところが多かった。近年になって、伊勢内宮のおはらい町、出雲大社の神門通りは、住民の努力で楽しい通りに再生した。

 

➂建物―拝殿・本殿と社叢林

 メインとなる建造物の評価は、大きさ、古さ、屋根などの美しさ、建物をおおう彫刻類からの評価になる。神社の場合、拝殿だけでなく、可能であれば本殿まで見ること。大事なことは、拝殿や本殿の建物が社叢林(社寺林、境内林)に取り囲まれていることで、これらが一体となることで、厳かな雰囲気を醸成し、参拝者の心を清め、神に崇敬の念を抱かせる。社叢林は神社の評価では大きな役割を果たす。境内にイチョウ、クスノキ、ケヤキ、スギなどの巨木があると、境内のアクセントとなるうえに、それらが神木となっていることも多い。

 奈良の三輪山は山全体がご神体で、登ることはできず大神(おおみわ)神社の拝殿奥の三つ鳥居を通して拝する。前述の神倉神社は背後にある巨岩「ゴトビキ岩」がご神体である。

神倉神社のご神体「ゴトビキ岩」

 1964年、鎌倉に大きな問題が起きた。鶴岡八幡宮の御谷(おやつ)地区の裏山が宅地開発される恐れが生じたのだ。作家大佛次郎など市民の猛烈な反対運動が功を奏して、八幡宮裏の宅地開発の計画は中止となった。そのときに市民から出されたイギリスの「ナショナルトラスト」の考えから、1966年建設省(当時)により通称古都保存法が制定され、「日本ナショナルトラスト」が1969年に設立された。社叢林が重要であることを物語る事件であった。

社叢林の例①:福井県若狭彦神社

社叢林の例②:福井県若狭姫神社

このたびれぽで紹介している資源
筆者

溝尾 良隆

立教大学名誉教授。理学博士。公益財団法人日本交通公社評議員。1941年東京都生まれ群馬県育ち。
東京教育大学理学部地理学専攻卒業後、株式会社日本交通公社外人旅行部に入社。その後、財団法人日本交通公社へ移籍。
1989 年立教大学社会学部観光学科教授。観光学部教授、観光学部長、日本観光研究学会会長などを歴任。
著書に『改訂新版 観光学:基本と実践』(古今書院,2015 年)、『ご当地ソング、風景百年史』(原書房,2011 年)、『観光学と景観』(古今書院,2011 年)、『観光学の基礎』(原書房,2009 年, 共著)、『観光事業と経営:たのしみ列島の創造』(東洋経済新報社,1990)など多数。

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