磐梯山ばんだいさん

福島県の中央部、猪苗代湖の北に位置する磐梯山*は、主峰の大磐梯(標高1,816m)、櫛ガ峰(標高1,636m)、赤埴山(標高1,430m)の3つの山体から成る成層火山。山頂部では櫛ヶ峰、赤埴山そして大磐梯に囲まれた標高約1,400mのところに、長径500mほどの低地沼ノ平を抱える。
 磐梯山の火山活動の歴史は、約70万年前から開始されたと思われ、およそ50万年~10万年前に古磐梯火山の活動期に入り、櫛ケ峰、赤埴山を中心とした山体が形成されたといわれる。8万年前からは大磐梯などの新しい山体が誕生し、山体崩壊が繰り返されたと考えられている。有史以降も水蒸気爆発をたびたびくり返し、麓に火砕泥流などによる災害をもたらした。とくに1888(明治21)年*、水蒸気を主とする火山ガスを大量に噴出した噴火では、小磐梯が山体崩壊し爆裂カルデラを形成した。このような噴火の歴史により、猪苗代湖側のいわゆる表磐梯の山容は長い裾野を引く成層火山らしい優美な姿だが、一方、裏磐梯と言われる北側は大噴火で吹き飛んだ小磐梯の跡が急峻なガレ場となり、大きな爆裂火口を露わにして厳しい表情をしている。さらに裏磐梯には、この時に形成された磐梯高原が北麓に広がり湖沼群が点在する。
 植生は、ヒメコマツなどが生育しているが。1888(明治21)年の噴火で山体が荒れたため、樹層が発達段階にある。沼ノ平付近にはスゲ類やコケ類が多い高層湿原*が見られる。登山口*は、猪苗代登山口をはじめ、渋谷、川上、裏磐梯、八方台、翁島の6つ。
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みどころ

深田久弥は磐梯山の景観を「昔から磐梯山は猪苗代湖と共に賛美されたので、此の山と湖とどちら一つ欠いてもいけない」と猪苗代側からの表磐梯の優美で気高い山容を愛でたが、現在は標高1,200mほどまでスキー場開発などが進み、以前とは様変わりした景色が見られる。山頂部では「沼ノ平湿原へ入る。ここは大昔の噴火口の底にあたる所で、そこから急峻な斜面を登る。このへんの岩の絶壁は実にみごとで、爆発の力がいかに偉大か示しているようである」と表磐梯の麓からみた風景とは異なったダイナミックな山の姿を記している。磐梯山は裏と表で大きく山容が異なり、様々な表情をみせてくれるのも、この山のみどころだ。
 また、会津地方の人々は、様々な山容を見せる磐梯山に対し、時には噴火によって被害を受け、時には懐の深い自然から恵みを得たりしてきたため、畏怖あるいは崇敬し、山岳信仰の対象として、「会津山」*とも称してきた。そのため、慧日寺、磐椅神社を始め、磐梯山をご神体とする信仰や言い伝え、詩歌などが数多く遺されている。
 山頂からは四方に眺望がきく。南側に猪苗代湖が眼下に広がり、遠く那須茶臼岳を眺め、東側は吾妻連峰、安達太良山、北側には、眼下に桧原湖、遠く西吾妻の山並み、西には会津盆地が広がる。
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補足情報

*磐梯山:磐梯山の名については諸説あるが、「天に達する磐の梯」からきているといわれている。また、江戸後期の『新編会津風土記』では「絶頂ニ磐梯明神トテ石ノ叢祠アリ 磐梯神社モ古ハ此山上ニ鎮座アリト云 其社跡ナルモ知ベカラズ」と記されており、信仰の山でもあった。
*1888(明治21)年:大正期に編纂された『福島県耶麻郡誌』によれば、この噴火で、「桧原・小野川・秋元等の瀦水を形成し又数部落を埋没したる爲め死亡四百六十一人負傷者約七十人其死亡者の多数は岩塊土石の爲に埋没せられたる者多く」と記録し、この時に磐梯高原や湖沼群が創り出されたことを記している。
*高層湿原:高山などで貧栄養の地下水、降水に満たされる湿原は、枯れた植物の分解が遅く泥炭層が生成されやすい。これにより泥炭層が層が厚くなって形成された湿原のことを高層湿原という。
*登山口:猪苗代登山口はJR磐越西線猪苗代駅から北へ約4km、猪苗代スキー場が起点となるが、6つの登山コースの中では標高差が1,120mともっともある。八方台登山口は磐梯山ゴールドライン沿いの峠から入るコースで高低差が600mともっとも少なく距離も短いが、変化には乏しい。他の登山口からのコースにもそれぞれ特色があるので、体力、脚力に合わせ選択をしたい。
*「会津山」:『新編会津風土記』では「四郡(会津、耶麻、大沼、河沼)第一ノ名山ナレハ古ヨリ會津山ト稱シ古人ノ詠アリ」とし、平安時代後期の歌人藤原仲實の「會津山すそ野の原にとも(灯)しすと ほぐし(火串)に火をぞかけ明しつる」などを紹介している。また、『福島県耶麻郡誌』では会津藩初代藩主保科正之の「縁あらばわれまたこ(来)んと いははし(磐梯)の山の麓とのきよみづ(清水)のもと(寺:慧日寺)」を取り上げるとともに、俗謡として「會津萬代山寳の山よ笹に黄金がなりさがる」ではじまり、盆踊り唄として知られる「会津磐梯山」も紹介されており、古くから磐梯山が会津地方の人々に親しまれてきたことがわかる。