猪苗代湖いなわしろこ

福島県のほぼ中央部にあり、日本第4位の面積(103.3km2)をもつ淡水湖*で「天鏡湖」とも呼ばれる。磐梯山の麓のおだやかな湖面には、小さな岬や湾入はあるが大きな屈曲はなく、形は卵形に近い。湖に長瀬川が流入する北東部から北岸一帯がやや開けるほかは、山が湖岸に迫っている。北西部から流れ出る日橋川(にっぱしがわ)の水は潅漑・発電に使われ、郡山盆地を潤す安積疏水*も湖水を利用している。
 観光の拠点は、北岸の長浜*を中心に上戸浜、天神浜、志田浜、蟹沢浜と郡山市側の南岸にある「湖南七浜」*で、夏には湖水浴・マリンスポーツ・キャンプなどで賑わう。
 猪苗代湖の成因*は、20~30万年前に現在の湖の東側と西側の両断層により地面が陥没して猪苗代盆地が形成され、その後、数万年前に磐梯・猫魔ガ岳の噴火による翁島泥流によって長瀬川などの流路がふさがれたことにより、盆地の低い部分に水が溜まって猪苗代湖の原型が出来たと推定されている。
 酸性の強い長瀬川が流入するため、プランクトンの少ない貧栄養湖で、魚類は少なく、フナ・コイ・ウグイなどが生息するだけである。冬期にはハクチョウの飛来もみられ、北岸の湖底には天然記念物のミズスギゴケ*の群落がある。
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みどころ

磐梯山の秀麗な姿とそれを映す猪苗代湖の景観が素晴らしい。大正期の『福島県耶麻郡誌』においても「澄波鏡の如く遠嶂(峰)空に聳え朝夕の変態一ならず 實に一方の勝地なり 中にも東北方は波穏に沙白く曠野多く之に連り眺望殊に勝れ 西南方は断崖突出して水深く松青し」と賞賛している。その風景は現在も変わらず、朝夕の水の色合いと山影の映り込む姿の変化も見どころだ。
 夏には湖水浴、キャンプやマリンスポーツに多くの人が訪れ、透明度の高い澄んだ「天を映す鏡のような湖」の湖畔をサイクリングで走るのも楽しい。秋から冬、春先にかけては、白鳥(コハクチョウが中心)が毎年400羽ほど湖の北岸に渡来し、渡来期間が半年以上と長いことも知られている。澄み切った湖面とハクチョウの白さはよく調和している。
 また、猪苗代町の天神浜を中心に厳冬期の1月上旬から2月中旬に猪苗代湖の波しぶきが、遠浅の湖底と地形条件のもと冬の強い季節風に吹かれ、岸辺の樹木に着氷した「しぶき氷」が見られることがある。ただ、温暖化に伴い、この風物詩もかつての規模より小さくなったり、造形されないこともあるので、見学には事前に確認が必要だ。
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補足情報

*淡水湖:湖面標高514m、湖岸延長50.4km、最大水深93.5m。
*安積疏水:水利が悪い郡山の安積原野に猪苗代湖からの水を引いた事業。1879(明治12)年から始まった国直轄の農業水利事業で、オランダ人技術者ファン・ドールンの監修の下、1882(明治15)年に幹線水路延長52km、分水路78km、受益面積が約30km2の大規模疏水が完成し、安積原野を沃野に変えた。
*北岸:長浜は、国道49号線にはマリーナや貸しボート、国指定重要文化財「天鏡閣」などがある。与謝野晶子は「長濱を巻ける林に輕く乗る磐梯山とうす紅の空」とその景勝を愛でている。また、国道49号線沿いには野口英世記念館もある。JR磐越西線猪苗代駅から最寄りの北岸までは1.5㎞ほど、野口英世記念館までは3㎞ほどある。バス、タクシー、レンタサイクルの利用となる。
* 湖南七浜:浜路浜、横沢浜、舘浜、舟津浜、舟津公園、青松浜、秋山浜。いずれの浜からも湖越しに磐梯山を眺望できる。
*成因:猪苗代湖の形成については、江戸時代に編纂された『新編会津風土記』や『会津舊時雑考』に806(大同元)年の磐梯山の噴火によるものではないかとされる記事もみられるが、現在では地質学・地理学の観点からは肯定はされていない。
*ミズスギゴケ:猪苗代湖北岸、深さ約3mの湖底にあるミズスギゴケの植物体が、水流作用により千切れ大小無数の球状または楕円状のマリゴケとして形成された群落がある。時として岸に打ち上げられこともある。

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