奈良のシカならのしか

奈良のシカは春日大社の神の使い*1とされ古く*2から大切にされてきた。現在は奈良公園に1,300頭(2024年7月現在)ほどが生息、国の天然記念物として保護されている。春日大社の参道脇に鹿苑があり、シカの保護育成にあたっている。公園内の売店で販売している「鹿せんべい」*3は観光客がシカに与えることができるが、それ以外は一切与えられない。シカの毛なみが一番美しいのは5・6月頃で、子ジカの誕生は新緑のころである。9~11月は発情期で気が荒くなり、雄シカの角が硬くなる。
 例年、10月のスポーツの日を含む3連休(土・日・月曜)には、鹿苑角きり場で一般財団法人奈良の鹿愛護会*4による古式「鹿の角きり」*5が行われる。また、ナチュラルホルンの音色でシカを集める「鹿寄せ」*6は明治時代に始まったもので、現在、8月の土・日曜と、12月~翌年2月の週末などの朝に春日大社境内「飛火野(とびひの)」で開催されている。
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みどころ

奈良のシカは、500万m2にも及ぶ広大な奈良公園をはじめ、同公園に接する春日大社や興福寺、東大寺、奈良国立博物館の敷地内の各所で見ることができる。木立のなかや若草に萌える芝生、大きな伽藍を前に鹿が群れ遊ぶ、のんびりとした景観は奈良公園ならではのもの。秋に行われる古式「鹿の角きり」は、江戸時代から今日まで約350年にわたり、鹿と奈良の人々との共生の中で受け継がれている伝統行事。角のある雄シカを捕まえ、鋸で切り落とす勇壮なもので、見物客が多い。
 愛らしい姿を見せるシカだが、野生動物なので時として突進されたり、角で突かれたりされるので、不用意にシカに触れたり子どもだけで近寄らないように注意が必要である。また、シカが異物を食べないよう、ゴミは持ち帰ることとし、鹿せんべい以外は絶対に与えてはならない。
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補足情報

*1 神の使い:古事記に「出雲国の国譲り」に際し、武甕槌(たけみかづち)命を大国主命のもとに遣わすという天照大神の命令を伝えに来たのが天迦久神(鹿の神霊)であったとある。また、春日大社は御蓋山(「春日山」)の麓に、768(神護景雲2)年、称徳天皇の勅命により武甕槌命、経津主(ふつぬし)命、天児屋根(あまのこやね)命、比売(ひめ)神を祭神として本殿を造営されたと伝えられ、この折りに、武甕槌命が「白き鹿に鞍を置き、鞍の上に榊をのせ、榊の上に五色の雲聳(たなび)き、雲の上に五所の神鏡と顯て、常陸国鹿島郡(神社)より、此大和國三笠山の本宮に垂迹」(鎌倉時代・源平盛衰記)したという伝説がある。これらのことからシカが古くから神の使いとされ、大切にされてきたという。
*2 古く:7世紀後半から8世紀後半にかけて編纂された万葉集にもシカに関する歌が60首以上も選ばれており、そのなかで春日山周辺のシカを詠み込んだものも多い。大伴旅人の「春日野に粟蒔けりせば鹿(しし)待ちに継ぎて行かましを社(やしろ)し留(とど)むる」(春日野にもし粟が蒔いてあるならば、粟を荒しに出て来る鹿の番をしに、自分は毎晩でも続けて行きましょうに、神のお社があるから粟は蒔いてなく、結局お社が自分の行くのを阻止するわけですよ。御身が進んで逢おうというのならば、自分は毎晩でもいきましょうに・・・後略。佐佐木信綱・訳)や大伴家持の「をみなへし秋萩しのぎさを鹿の露別け鳴かむ高圓の野ぞ」(女郎花や秋萩の花を押し靡けて、牡鹿が露を分けながら鳴くようになる高円の野辺(春日野の南)である。佐佐木信綱・訳)などがある。
*3 鹿せんべい:売店で販売されている鹿せんべいは、米ヌカと小麦粉で作られており、砂糖も塩も入っていない。シカにとって安全なおやつである。
*4 一般財団法人奈良の鹿愛護会:奈良県などの行政機関とともに「天然記念物『奈良のシカ』保護計画」のもと、生息環境の保全維持、交通事故などの安全管理及び奈良公園周辺地域の農業被害、生活環境被害などの防止対策を行っている。
*5 古式「鹿の角きり」:シカの角は切らなくても春には自然に脱落し、新しく生えかわる。その後は、「袋角」と呼ばれる濃茶色の膜に被われた柔らかい角が伸びてくる。夏を過ぎると、袋角は枝分かれして大きく、硬くなっていく。秋の交尾期までに角は伸びきり、外皮が剥げ落ち完成する。角をもつのは雄シカのみで、生後約1年で5~15cm程度の1本角をその秋にもつ。以後、毎年生えかわっていき、3~5歳くらいで3本の枝角をもつ40~50cmの角が生えるようになる。生後10年目くらいまでは年齢とともにそのサイズは増加するが、その後は小さくなる。奈良公園では、鹿と人とのトラブル防止及び鹿同士の安全のため、角が完成する秋に雄シカの角を切る。
*6 鹿寄せ:夏、冬の無料公開の鹿寄せ以外にも、有料だが予約制でも実施している。
関連リンク 一般財団法人奈良の鹿愛護会(WEBサイト)
参考文献 一般財団法人奈良の鹿愛護会
奈良県産業部観光局奈良公園室(WEBサイト)
佐佐木信綱「万葉集(現代語訳付)」 (Kindle の位置No.4151-4152)  Yamatouta e books  Kindle 版
中村啓信「新版 古事記 現代語訳付き『建御雷神と国譲り』」角川ソフィア文庫 Kindle版
「天然記念物『奈良のシカ』保護計画」令和4年4月 奈良県

2024年12月現在

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