後生掛温泉ごしょがけおんせん

八幡平の西、焼山(標高1,336m)東麓の谷間に佇む、標高約1,000mの一軒宿の温泉で、蒸ノ湯の西方2.5km下ったアスピーテライン沿いにある。後生掛*1温泉は火山活動が盛んな温泉地獄や泥火山を沢の奥に抱え、周辺は硫黄の臭いと噴煙が充満している。
 開湯は江戸中期とされ、古くから湯治場として「馬で来て足駄で帰る後生掛」と謳われていた。宿としては1881(明治14)年に谷内村(鹿角市)の阿部仁八によって創業された。現在の宿は本館・新館の旅館と2棟からなる湯治部がある。湯治部の客室はオンドル式*2の部屋も用意されている。
 浴場は男女別に、温泉の効能分が含まれた大量の泥が湯船に入っている「泥風呂」、木箱の中に座って入る「箱蒸し風呂」*3、湯船の底から気泡が噴き上がる「火山風呂」、深めの湯船の「神恵痛の湯」、蒸気サウナ、打たせ、露天風呂の7種類があり、それとは別に旅館部宿泊者用専用小浴場がある。日帰り入浴も可能。泉質は単純硫黄泉、硫黄泉、源泉温度は88℃。
 宿の横を起点として「後生掛自然研究路」があり、湯が沸き立つ2つの噴出孔オナメ・モトメ、藍色の泥湯をたたえて沸騰する紺屋地獄、マッドスポット(泥熱泉)が点在する沢、高さ1~2mほどの泥が間欠的に噴き立つ火山が連なるような大泥火山、泥湯が沸騰する旧噴火口の大湯沼など様々な火山活動の様子を約2km、徒歩40分で観察することができる。自然観察研究路の周辺には硫化ガスに耐えられるイソツツジ、ガンコウラン、シラタマノキ、イオウハナゴケなどの植物も観察できる。
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みどころ

古くから効能の高い湯として知られ、特にこの宿の特色である「オンドル」は、「オンドル処もえぎ」にて日帰りでも利用できるほか、旅館宿泊時にも体験することができる。
 また、木の箱から首を出して入る箱蒸し風呂も全身が温まり、人気のある風呂である。入浴のあとは、泥火山などを巡る後生掛自然観察路を散策してみるのも良い。泥の沸き立つ様子は、より一層温泉の効能を高めてくれるような気分になる。
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補足情報

*1 後生掛:温泉名は「オナメ・モトメ」伝説に由来するという。伝説によると「追剥に遭遇し負傷した雫石の喜平がこの地の湯治を行っていると、霊場巡りで来湯した娘と出会い、娘が熱心に看病したおかげで喜平は回復し、二人は結ばれた。しかし、雫石から喜平の妻が夫を探しに来て、喜平に新しい相手がいることを知り、地獄谷で投身自殺をしてしまう。これを見た娘も犯した罪に苦しみ後を追って飛び込んでしまう。すると、二つの新しい噴泉が噴き出し、この大噴泉を『オナメ(妾)、モトメ(本妻)』」と呼ぶようになったという。喜平は自分の罪深さを悔い、大きな石に二人の戒名を刻み、その後、一生を掛けて弔い続けていたことから、この地を「後生掛」と呼ばれることになったという。
*2 オンドル式:床下に温泉蒸気を通し、その地熱で湯治効果をあげようとするもの。後生掛では古くからこの湯治法を取り入れている。この湯治法は継続的に温熱を体内に吸収できるので心臓などへの負担が少なく、神経痛などに効くと言われている。
*3 箱蒸し風呂:木の箱から首だけ出し、蒸気であたたまる和風サウナ。