長崎市東山手・南山手の洋風建築群ながさきしひがしやまて・みなみやまてのようふうけんちくぐん

長崎における外国人居留地は、1858(安政5)年に締結された日米修好通商条約をはじめとする安政の五カ国条約を機に、1859(安政6)年に長崎は開港場となり、外国人居留地が設定されため、同年、長崎湾奥の東側、大浦海岸を中心に埋め立て、造成工事が着手されたことに始まる。居留地は、外交団の要求もあり、順次埋め立て面積が広げられ、山手側(東山手・南山手)なども追加造成された。さらに出島を加え、造成工事が完成した1866(慶応2)年には総面積約36万mとなった。海岸にもっとも近いエリアに商館や倉庫が建造され、その背後地にホテル、銀行、娯楽施設が並び、山手には洋風住宅、教会などが建てられて、洋風建築が建ち並ぶ外国人居留地の町並みが形成された。現在は東山手及び南山手の両地区は国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。
 高台の東山手地区には、かつては主に各国の領事館や礼拝堂が建ち並び、領事館の丘とも称された。その後、領事館などの跡地にはミッション系の教育施設などが建てられた。地区内の建造物の多くは、桟瓦葺、ペンキ塗りの下見板張で、ベランダを海に向って設け、開放感溢れる造りとなっている。現在も遺されている建造物で代表的なものには、東山手十二番館*1・旧長崎英国領事館*2や7棟の東山手洋風住宅群*3がある。保存地区の面積は約7.5万m
 一方、南山手地区は長崎港を見渡す高台に主に住宅地として利用されていた。現在、地区の北側には、当時からの建造物としては大浦天主堂・旧羅典神学校*4など、その南にあるグラバー園内には旧グラバー住宅、旧オルト住宅、旧リンガー住宅が遺されている。そのさらに南側には現在も住宅地が広がり、居留地時代の洋風住宅も点在し、大浦海岸通り沿いには旧香港上海銀行長崎支店*5、旧長崎税関下り松派出所*6などの遺構もある。保存地区の面積は17万m
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みどころ

ここでは、坂が多く上り下りはあるが異国情緒あふれる町並みをゆっくりと散策することをお勧めする。長崎電軌鉄道の電停大浦海岸通りから、旧長崎英国領事館をみてから、石畳の左手に岩盤が続くオランダ坂を登ると、カナリーヤシが目印の東山手甲十三番館が見える。活水学院の前を通り、東山手十二番館を経て、階段を下り、東山手洋風住宅群へと進むのが一般的。オランダ坂はかなり急なところもあるが、坂の途中に和洋折衷の洋館が点在し、その間を石畳の道がつなぐという、長崎を代表する風景といって良い。間違いなく外国人居留地時代の面影を見出すことができるだろう。東山手の洋風住宅群から下りきると電停石橋。その先の細めの道を進み、グラバースカイロード(斜行エレベーター)と垂直エレベーターを利用すれば、グラバー園の第2ゲート前に辿り着ける。あとは、南山手地区にある大浦天主堂、旧羅典神学校を見学し、大浦海岸通りに出て、旧香港上海銀行長崎支店などを見れば、主な洋風建造物群を見たことになる。グラバー園の第1ゲート前から南へ伸びる、石畳のグラバー通りをそぞろ歩きをしながら、長崎湾の風景とちらほらとある洋風建築を眺めるのも悪くない。
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補足情報

*1 東山手十二番館:1868(明治元)年の建造で東山手地区で現存するものでは最古。開放的な3面のベランダと広い廊下などが、当時の領事館建築の特徴。当初ロシア領事館として使われたのち、アメリカ領事館や宣教師の住宅を経て、学校法人活水学院に譲渡、その後長崎市に寄贈された。現在は、旧居留地私学歴史資料館(入館無料)。国指定重要文化財。
*2 旧長崎英国領事館:開港時は大浦の妙行寺にあり、その後、東山手の丘の上に移転し、さらに海岸沿いの現在地に移った。現在の建物は居留地廃止後のもので、1908(明治41)年に竣工したものである。レンガ造り2階建て。明治期後半の洋館建築として貴重な遺構である(2024年保存修理中で見学不可・2025年完了予定)。国指定重要文化財。
*3 東山手洋風住宅群(7棟):明治20年代後半に建設された建物で、7棟が密集して建ち、構造や意匠に共通点が多いことから、社宅やアパートとして建設されたと考えられている。瓦葺きの屋根、マントルピース、中国風の欄間、といった和・洋・中が混在した意匠となっている。現在は、東山手地区町並み保存センター、古写真資料館・埋蔵資料館、カフェとして活用されている(一部入館有料)。市指定有形文化財。
*4 旧羅典神学校:1875(明治8)年に建設された、日本人司祭養成のための神学校。設計はフランス人神父、マルク・マリー・ド・ロ。木造の骨組みにレンガ積みの壁という特殊な構造。地上3階地下1階。ド・ロは大浦天主堂司祭館、出津教会堂なども設計している。入館料有料(大浦天主堂の入館料に含まれる)。国指定重要文化財。
*5 旧香港上海銀行長崎支店:1896(明治29)年に開設された。現在の建物は1904(明治37)年に竣工したもの。石造・レンガ造3階建て。1階の連続アーチと2、3階を通したコリント式の大きな円柱が特徴的。入館有料。国指定重要文化財。
*6 旧長崎税関下り松派出所:1898(明治31)年建築。レンガ造り、平屋建て。明治期の税関施設として当時の状況をよく遺している。入館有料。