秋吉台・秋芳洞あきよしだい・あきよしどう

秋吉台は、山口県の西北部にある標高200~400mの石灰岩高原。日本最大のカルスト*1景観地として知られている。総面積130km2のカルスト台地のうち、45.02km2が国定公園に指定され、さらにそのうちの主要部が特別天然記念物として保護されている。ゆるやかな曲線をみせる広大な高原には、灰白色の石灰岩が無数に露出点在する景勝地が広がり、南端には秋吉台展望台、秋吉科学博物館、家族旅行村などの施設があり、若竹山自然研究路などの探勝トレッキング、ハイキングコース*2 の拠点となっている。秋吉台の成因は2億年から3億年前、古生代の石炭紀からペルム紀(二畳紀)にかけて、浅海に生息していたフズリナ、サンゴ、石灰藻などの生物の遺骸が海底に堆積し、長い年月と地殻変動を経て地上に隆起し、台地を形成した。石灰岩は可溶性で酸に弱く、炭酸ガスを含む雨や、植物根から分泌される有機酸などによって変化を受ける。この溶食作用によって、秋吉台の地表にカレンフェルト*3、ドリーネ*4、ウバーレ*5、ポノール*6などの現象が生じ、地下には多数の鍾乳洞が形成され、それが秋芳洞はじめ、景清洞、大正洞などの石灰洞群となっている。
 秋芳洞は秋吉台の南山麓地下にある壮年期の石灰洞。規模・美観ともわが国のみならず世界有数といわれる鍾乳洞である。洞口の高さ24m、幅8m。延長*7は11kmを超えるといわれるが、一般観光客は解説板や照明のある約1kmの地点までしか入れない。秋芳洞の形成は、秋吉台特有の地質・気候条件がもたらしたもの。石灰岩台地に降りそそぐ雨は、地下水となって石灰岩の割れ目に沿って流れ込み、しだいに回りの石灰岩地層を溶食して洞窟を造り、さらに洞床流の浸食によって規模を広げていく。この洞穴内では、石灰岩の溶解作用と同時に、石灰分の沈積作用も行われる。天井からしたたり落ちる水滴は石灰分を多量に溶かし込み、落下する場所によって、鍾乳石(しょうにゅうせき)*8・石筍(せきじゅん)*9・石柱(せきちゅう)*10・石灰華(せっかいか)*11など多種多様の二次形成物を造り、豊かな地下水流が淵や滝も形成し、数々の自然の造形*12を生み出している。洞内は暗黒・恒温・多湿なため、体色がなく、目が退化し、触角が異常に発達するという洞窟特有の生物が生息する。洞をねぐらとするコウモリ、その糞を栄養分とするダニ・カニムシ・トビムシ、さらにそれらを食べる肉食性のオオメクラチビゴミムシ、水棲のメクラミズムシなどで、これらの生物については、秋吉台科学博物館*13に生態資料が展示されている。正面入口から約700mの千畳敷前で洞が2つに分かれるが、見学できるのは左手、全長300mの黒谷支洞だけ。千畳敷斜め向かいのエレベーターでも、黒谷支洞を行っても秋吉台に出られ、逆コースも可能。洞内の観光所要時間は60分程度(往復90分)。入洞有料。洞内で追加料金を払うと、懐中電灯の貸し出しを受け、100mほど(10~15分程度)の冒険コースも観覧できる。また、景清洞、大正洞*14とともに三洞の共通入洞券もある。
 秋吉台と秋芳洞へのアクセスは、JR下関駅、新山口駅、山口駅、東萩駅、美祢駅など各地から秋芳洞正面入口の近くにある秋吉台観光交流センター(バスセンター)へバス便がある。秋吉台展望台へは秋芳洞へ入洞してエレベーターを利用するか、黒谷支洞出入口から徒歩15分、また、バス便では秋吉台観光交流センター(バスセンター)から山口駅、東萩方面のバスで15分ほど。車でのアクセスなら中国自動車道美祢インターチェンジから約10kmで、小郡萩道路の秋吉台インターチェンジからは7kmほど。
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みどころ

秋芳洞は日本においては、最大級の鍾乳洞であり、石筍、鍾乳石などの二次生成物の発達が見事。とくに正面入口から洞内に入ったところは、天井が高く、洞内川の瀬音も大きく響き、圧倒されるものがある。洞内の歩道はよく整備され、案内・解説板も分かりやすいため、照明をうけて神秘的に輝いている自然の造形が次々に現れる。小さな池が段々に並んだようにみえる「百枚皿」や黄金色に輝く「黄金柱」などみどころが多く、十分に楽しめる。本洞は比較的天井も高く、ダイナミックな景観が多いが、黒谷支洞に入ると、洞内が狭く、鍾乳石、石柱などが間近に迫ってくる迫力があり、趣が異なる。
 秋吉台の眺望を手軽に楽しむなら、秋芳洞からエレベーターを利用しても登ることができる秋吉台展望台だろう。展望台からの眺望は、石灰岩が草原に遊ぶ羊の群れに似て、おおらかな雰囲気がある。若草がいっせいに生えそろう5月、リンドウ・萩など野の花とススキが彩る10~11月はとくに美しい。しかし、カルスト地形を堪能するためには、地獄台や長者ケ森まで足を伸ばしてみたい。時間的に余裕があり、脚力に自信があれば、トレッキング、ハイキングを楽しみたいが、車でカルストロードを走るだけでも雰囲気は十分に楽しめる。車なら、大正洞や景清洞まで訪れ、同じ鍾乳洞でも秋芳洞とは異なった雰囲気を是非体験してほしい。
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補足情報

*1 カルスト:溶食作用の発達した石灰岩地特有の地形を意味し、同地形であるユーゴスラビアのカルスト地方の名から付けられた。日本のおもなカルスト地域は、中国・四国・九州地方に集中し、なかでも中国地方に顕著である。
*2 トレッキング・ハイキングコース:もっとも手軽なのが、若竹山自然研究路。展望台から若竹山、妙見原を一巡する1.5kmの遊歩道で一周30分。ドリーネ、カレンフェルトがよく観察できる。そのほか展望台から長者ヶ森まで台地を南北縦断するコース、長者ヶ森から良悟松、地獄台を回るコース、龍護峰など秋吉台家族旅行村周辺を回るコース、大正洞から真名ヶ岳を通り長者ヶ森に至るコースなど、様々な組み合わせが可能となっている。
*3 カレンフェルト:地表にあらわれた溶食残岩。白く露出する石灰岩柱がそれで、地獄台あたりが最も見事である。
*4 ドリーネ:雨水が地下に浸透流入する際の溶食でできるすり鉢状の窪地。秋吉台には直径30mを超えるドリーネが約400個あり、いたる所で見られる
*5 ウバーレ:石灰盆。溶食の進行でドリーネが連合したもの。
*6 ポノール:吸込穴。多くはドリーネやウバーレの底に開口し、穴の深さは平均70m。大正洞入口に代表的なものが見られる。
*7 延長:日本でもっとも延長が長い鍾乳洞は、岩手県の安家(あっか)洞で23.7kmとされ、秋芳洞はそれに次ぐものと言われている。
*8 鍾乳石:地下水が天井から滴下する時、石灰分が沈積してできる「つらら」。水量や気象条件によって管状、乳房状、粒状、幕状などの形になる。
*9 石筍:鍾乳石と相対した洞床面にでき、タケノコやキノコ状に成長していく。
*10 石柱:鍾乳石と石筍が結合したもの。鍾乳石が1cm伸びるのに平均100~200年、石筍は200~300年かかるといわれる。
*11 石灰華:洞の壁面に石灰分が沈積したもの。流動感にあふれた滝や柱状になる。
*12 自然の造形:洞内歩道からも数多くの石灰岩の溶解と水の作用で生まれた様々な造形を観察できる。例えば、「百枚皿」は洞床の傾斜地にできた石灰華段丘で、直径10cmから4mの皿状の小池約500個が段丘状に連なったもの。「傘づくし」は鍾乳石の奇観で天井から2m内外の傘状の鍾乳石が無数に垂れ下がったもの。「黄金柱」は高さ15m、直径4mの巨大な1本柱で、洞壁の湧き水による滝状石灰華で、照明を受けて黄金色に輝く。「巌窟王」は黒谷支洞にあり、高さ8mにおよぶ複合石筍で、甲胄姿の王者を思わせる、など、数多くの造形を楽しめる。
*13 秋吉台科学博物館:地質・地形・生物・考古の4部門にわたって秋芳洞を研究、その成果や資料、標本などを公開している。入館無料。
*14 大正洞:秋芳洞から北へ10kmほどの道のりのところにある。本洞の延長が約1km、竪穴が連絡している複層的な洞穴。鐘乳石、石筍に富んでいる。かつては戦乱などの際、洞の一部に牛を隠したとされ、牛隠し洞とも呼ばれていた。本格的な洞内調査が行われ、全容が解かったのが大正時代だったことからこの名が付けられた。見学の所要は40分ほど。
関連リンク 一般社団法人美祢市観光協会(WEBサイト)
参考文献 一般社団法人美祢市観光協会(WEBサイト)
一般社団法人美祢市観光協会(WEBサイト)秋吉台国定公園
Mine秋吉台ジオパーク推進協議会(WEBサイト)
「秋吉台・秋芳洞マップ」「秋芳洞」「大正洞・景清洞」パンフレット
一般社団法人美祢市観光協会「秋吉台トレッキングマップ」

2025年03月現在

※交通アクセスや料金等に関する情報は、関連リンクをご覧ください。

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