桂川(嵐山周辺)かつらがわ(あらしやましゅうへん)

京都市左京区北西端の広河原と南丹市美山町境の佐々里峠を源とし、全長114kmの京都府を代表する河川の一つ。亀岡盆地を流れ、保津峡に入ると保津川(ほづがわ)、嵐山にかかると大堰川(おおいがわ)*と呼ばれ、渡月橋を過ぎると再び桂川と名前を戻し、その後鴨川を合わせ、さらに宇治川、木津川と合流して淀川となり、大阪湾へ向かう。保津川の急流から京都盆地に入り、川幅を広げてゆったりと流れる嵐山、渡月橋周辺の景観が特に美しい。渡月橋は嵐電嵐山駅から徒歩3分、阪急嵐山駅から徒歩約10分、JR嵯峨嵐山駅から徒歩約15分。
 「日本後紀」*などによると、京都盆地の桂川は、古くは葛野川(かどのがわ)と称されていた。氾濫が多く、5世紀後半には新羅系の渡来氏族、秦氏*による大規模な治水が図られ、一帯が開発された。上流の保津川は1606(慶長11)年に角倉了以・素庵*父子により開削され、舟運の道が開かれている。川は明治以降も度々氾濫を繰り返し、2013(平成25)年の台風では大水害が発生、さまざまな対策が取られ続けている。
 嵯峨・嵐山周辺は嵯峨天皇が離宮嵯峨院を造営以降、貴族の別荘地、遊楽の地となり、源融の栖霞観(せいかかん)、後嵯峨上皇*の亀山殿など多くの別荘が営まれた。藤原定家が百人一首を編んだという小倉山荘も嵯峨にあった。いまも嵐山は国の名勝・史跡に指定されている。その中心にある渡月橋は承和年間(834 ~848)に架橋されたのが最初とされ、現在の橋は1934(昭和9)年に完成したもの。橋の名は亀山上皇*が、橋の上空を進む月を眺めて「くまなき月の渡るに似る」と述べたことからとされている。この橋のあたりで催される5月の三船祭*、11月の嵐山もみじ祭*は王朝時代を思わせる優雅な祭りである。橋のすぐ下流には中ノ島が浮かび、桜の頃は一段と華やぐ。
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みどころ

桂川の流れと渡月橋、背景の嵐山の緑、山裾の街並みが絵になる。桜は嵐山公園全体、中ノ島の枝垂桜、嵐山の山桜と緑の樹木のコントラスト、紅葉は嵐山全山。三船祭、嵐山もみじ祭以外にも7月1日~9月下旬の嵐山鵜飼、8月16日の中ノ島での嵐山灯籠流しも魅力的イベント。
 嵐山には遊覧船もあるが、嵐山を着地とする保津川下り*、保津峡に沿う旧JR山陰本線を走る嵯峨トロッコ列車でも川の魅力を楽しめる。専用船で川を渡って送迎する宿も。川の北岸沿いには「百人一首」関連資料などを展示する「嵯峨嵐山文華館」や、伊藤若冲、上村松園など名だたる作品コレクションをもつ福田美術館などが点在、渡月橋から北200mには世界文化遺産の天龍寺がある。やや下流、四条通の西の突き当たりにある松尾大社は秦氏が奉斎し、酒の神として知られる。その前の松尾橋で桂川を渡って15分ほどの梅宮大社あたりは、かつて筏流しの河港があり、梅津の地名が残っている。さらに下流には桂離宮がある。
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補足情報

*大堰川:治水のために秦氏が大きな堰、葛野大堰を築いたためこの名が付いたという。大井川とも書いた。
*日本後紀:平安前期の歴史書。840(承和7)年完成。40巻。嵯峨天皇の勅命により819(弘仁10)年から編集に着手。「続日本紀」のあとをうけ、桓武天皇から淳和天皇までの4代792〜833年を編年体で著している。現存10巻。
*秦氏:秦の始皇帝の子孫というが、新羅系の有力渡来人とされる。土木、養蚕、織物の技術に優れ、5世紀後半ごろ葛野地域を開発。葛野大堰を造り、用水路を開削し、沃野を造成。長岡京、平安京造営に大いに力を発揮した。太秦の地名、そこにある広隆寺にも秦氏の力の大きさが見える。伏見稲荷大社の創建にも秦氏が関わっている。
*角倉了以・素庵:保津川に続いて高瀬川を開削、朱印船貿易で富を得るとともに、各地の河川改修を請け負う。能書家でもあった素庵は父了以の遺業を継ぐ一方、本阿弥光悦と美的意匠を凝らした嵯峨本を発刊。
*後嵯峨上皇:1220~1272年。第88代天皇。後継を明確にせず崩御し、南北朝の因をつくった。吉野の桜を愛し、吉野山から現在の天龍寺の地に造営した亀山殿に桜を移植させたという。
*亀山上皇:1249~1305年。第90代天皇、後嵯峨天皇の皇子。大覚寺統は亀山天皇に始まり、兄の後深草天皇の持明院統と両統迭立する。「徒然草」51段に後嵯峨上皇が大井川から亀山殿に水を引くために水車をつくる話が出ている。後嵯峨天皇と亀山天皇の御陵は天龍寺境内にある。
*三船祭:5月第3日曜。秦氏ゆかりの車折(くるまざき)神社の祭り。王朝の船遊びを再現し、龍頭鷁首(りょうとうげきしゅ)の船で舞楽、雅楽を演じ、御座船から金、銀とりどりの色の扇を川に流す。
*嵐山もみじ祭:11月第2日曜。平安管弦船、今様(いまよう)船などが典雅に大堰川に浮かぶ。
*保津川下り:亀岡~嵐山約16km、2時間の舟下り。乗り場はJR嵯峨野線亀岡駅から徒歩8分。ラフティングも受け付けている。
関連リンク 京都府(WEBサイト)
参考文献 京都府(WEBサイト)
京都市観光協会 京都観光Navi(WEBサイト)
「京都府の歴史散歩 上」山川出版社

2025年05月現在

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