乳頭温泉郷にゅうとうおんせんきょう

JR秋田新幹線・田沢湖線田沢湖駅から乳頭温泉郷の入口にあたる「鶴の湯温泉入口」まで北東へ約15km。標高1,478mの乳頭山*1の西麓、標高600mから900mほどの先達(せんだつ)川上流の渓谷沿いに7つの一軒宿の温泉が点在している。下流から妙乃湯*2・大釜温泉*3・蟹場(がにば)温泉*4、さらに、黒湯温泉*5・孫六温泉*6があり、先達川に流れ込む湯沢沿いに鶴の湯温泉*7がある。また、妙乃湯の下方には休暇村乳頭温泉郷*8がある。とくに黒湯温泉・孫六温泉・鶴の湯温泉は古くからの湯治場として知られており、昭和初期までは湯治場専用の温泉地であったが、1961(昭和36)年の国民体育大会を機に一般観光客向けの旅館部を備えるようになった。総称として、乳頭温泉郷の名で呼ばれるようになったのはこれ以降である。宿泊客は「湯めぐり帖」(有料)で各温泉の立ち寄り湯を楽しめる。また、湯めぐりバスも運行されている。
 休暇村からはウオーキングコースが整備されており、ブナ林のなか、妙乃湯、大釜温泉、蟹場温泉、孫六温泉、黒湯温泉などを巡る約3.2km、徒歩1時間ほどのコースや鶴の湯温泉への旧道コース(約3.2km)などがある。乳頭山、秋田駒ヶ岳への登山基地にもなっている。
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みどころ

乳頭温泉郷7湯は、それぞれが独自に源泉を持ち、その泉質も多種多様であり、立地もブナ林に埋もれた渓谷や高台、硫黄の臭いがするガレ場など変化に富んでいる。
 妙乃湯は、鶴の湯温泉入口から3kmほど県道を登った先達川の河畔に建ち、若い女性層を意識した細やかな配慮が行き届いた内装になっている。浴場も男女別の内湯・露天風呂と貸切風呂、それに混浴の露天風呂があるが、女性専用時間が設けられている。なんといっても先達川の堰を目の前にした混浴露天風呂「妙見の湯」が川音も心地良くお勧め。
 大釜温泉は、妙乃湯より県道を150mほど登ったところで、やや開けたところに林に囲まれて建つ校舎を利用した旅館。源泉は高温のため加水しているが、熱い湯、ぬるい湯が楽しめる。
 蟹場温泉は大釜温泉から150mほど先、1886(明治19)年の「日本鉱泉誌」では、「三面山ヲ南西ノ間僅ニ開豁ナリ而テ先達川其傍ヲ流レ地勢平坦ニテ岩石ヲ見ズ」としており、現状も三方を山に囲まれこんもりとした木々に埋もれて建つ。この辺りはサワガニが数多く生息していたところからこの名が付いたという。本館から50mほど離れた原生林の中にある木洩れ日が印象的な露天風呂も良いが、内湯の秋田杉の風呂も落ち着いた雰囲気で山の湯を楽しめる。
 黒湯温泉は鶴の湯温泉入口から休暇村手前を右折し約4km、先達川上流の荒涼とした源泉地帯のガレ場に臨んで建つ。源泉地帯の至るところから湯煙が上がり、湯だまりからは強い硫黄の臭いが立ち昇る。乳頭温泉郷の最奥に位置する。源泉地帯の河原の周囲はブナ林が生い茂り、数軒の茅葺き、杉皮葺きの黒い宿舎や湯小屋が軒を並べ、高台には茅葺きの別館もある。湯治場の風情をそのまま残している。黒湯温泉の名の由来は「日本鉱泉誌」では2説を紹介し、「一ハ諸獣ノ傷ヲ負フテ来浴スルヲ以テ土人之デ諸獣來留湯(クルユ)ト云フ」とし、もう一説は「此ニ浴シ病苦ヲ流スヲ以テ苦流湯(クルユ)」としている。
 孫六温泉は黒湯温泉から細い山道を先達川沿いに300mほど下った所に建つ一軒宿。大釜温泉側からは県道から右にそれたところにある駐車場から600mほど。建物は木造二階建てで、湯治棟、浴場などが川沿いに並ぶ。浴場は内湯のほか、河畔に臨む露天風呂は石組みの大きな湯船が心地良い。(2023年7月現在:改装のため休業中)
 鶴の湯温泉は鶴の湯温泉入口で県道からわかれ、途中、本館から引き湯している別館「山の宿」を経由して約3kmの沢沿いにある。宿の入口に入ると湯治場の風情を残す本陣の建物が縦長に並び、突き当りに湯小屋や露天風呂が並ぶ。この温泉のもっとも魅力的なのは、広々とした乳白色をした大露天風呂。露天風呂に浸かりながらの新緑、紅葉、雪景色は身体も心も温まる。
 休暇村乳頭温泉郷は鶴の湯温泉入口から約3km。ブナ林の中、少し開けた平坦な場所にある。ハイキングやアクティビティの起点になっている。休暇村だけに田沢湖方面に1.5kmほど下ったところにキャンプ場も併設されているほか、クラフト体験やガイド付き自然満喫ツアーなど体験型のプログラムも用意されている。
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補足情報

*1 乳頭山:秋田県側からは、乳房と乳頭に見えることからこの名が付けられているが、岩手県側では烏帽子岳と呼ばれている。登山口は黒湯温泉、孫六温泉、蟹場温泉の各温泉からとなる。山頂部東南部には柱状節理の絶壁があり、修験場ともなっていたという。ブナ林に覆われている所が多く、新緑、紅葉が美しい。
*2 妙乃湯:1952(昭和27)年開業。鉄分や硫黄が若干含まれたマグネシウム・カルシウム硫酸塩泉の酸性泉でさっぱりした肌触りの濁り湯「金の湯」と、無色透明、とろんとした柔らかさがある単純泉の「銀の湯」の2つの自然湧出源泉を利用して、8つの湯船を用意している。源泉温度は38~56℃
*3 大釜温泉:1970(昭和45)年開湯。1977(昭和52)年に火災で建物が焼失したため、由利本荘市から建て替えとなる小学校を移築し再建した。男女別の内湯、露天風呂がある。泉質は酸性含砒素ナトリウム塩化物硫酸塩泉、泉温は98℃。
*4 蟹場(がにば):1842(天保13)年に発見し1846(弘化3)年に浴場を設置。泉質は重曹炭酸水素泉・単純硫黄泉、源泉温度54~55℃。
*5 黒湯温泉:開湯は江戸初期といわれ。湯量は豊富で、混浴の内湯・露天風呂と打たせ湯、男女別に内湯・露天と旅館部内湯がそれぞれあり、男女共用打たせ湯小屋もある。泉質は単純硫化水素泉・酸性硫黄泉、源泉温度は78℃。冬季休業期間は11月中旬〜4月上旬。
*6 孫六温泉:発見は1902(明治35)年とされ、その後、黒湯温泉に湯治に通っていた田口久吉が湯治小屋を建てたのが始まり。 孫六温泉は田口家の屋号だという。男女別の内湯の源泉である唐子の湯の泉質はラジウム鉱泉で泉温は約50℃。混浴内湯の源泉の泉質は単純硫化水素泉で泉温は56℃、混浴の露天風呂の源泉は泉質が単純温泉、源泉温度は46℃、女性用露天風呂の泉質は単純硫黄泉、泉温が約52℃。(2023年7月現在:改装のため休業中)
*7 鶴の湯温泉:乳頭温泉郷でもっとも古く、「日本鉱泉誌」では元和(1615~1624年)年間以前の開湯とし、宿の由来記では1638(寛永15)年には秋田藩2代藩主佐竹義隆が訪れたとも伝えられており、元禄期(1688~1704年)には湯宿として営業していた記録があるという。鶴の湯温泉の名前の由来は、鶴が温泉で傷を癒しているのをマタギが見つけたことによるとされる。源泉は宿の敷地内に4つあり、白湯は混浴大露天風呂、黒湯温泉・中の湯は内湯、滝の湯は打たせ湯の名に使われている。女性専用露天風呂も別にある。泉質は含硫黄・ナトリウム・カルシウム塩化物・炭酸水素泉ほか。源泉温度は約60℃
*8 休暇村乳頭温泉郷:開業は1965(昭和40)年。源泉は単純泉の「ブナの雫」とナトリウム炭酸水素塩泉の「乳頭の湯」、男女別に露天風呂と、それぞれ2つの内風呂とがある。源泉温度は53~59℃。

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