大神山神社おおかみやまじんじゃ

大神山神社は大国主命*を祀っており、本社は鳥取県米子市尾高、米子市街地から東に6kmほどの地にある。奥宮は鳥取県西伯郡大山町、伯耆大山の北西斜面の大山寺境内から奥宮参道を700m上がった標高900mの山麓にある。
大山は奈良時代に編纂された出雲国風土記には大神岳(おおかみのたけ)と記されているように古くから山岳信仰の対象で、平安時代には大山と呼ばれるようになった。そして、修験者が修行をするために現在の奥宮のある場所に簡易な遥拝所が設けられた。これが社殿となったのは1701(元禄14)年と言われている。
 しかし、標高900mに達するこの地は積雪が多く、冬季の参拝が困難であったため夏季のみ使用される夏宮となり、夏宮から数km下、現在の伯耆町丸山の地に冬宮が設置された。この冬宮はさらに山麓に移転を繰り返したが、1653(承応2)年に気候条件の良い米子市尾高に落ち着き、現在に至っている。
 一方、もともと山岳信仰の場であった大神山神社は、平安時代の神仏習合の流れにより天台宗大山寺の別当寺(寺が管理する神宮寺)となり、地蔵菩薩を本地仏とする智明権現(ちみょうごんげん)*を祀るようになった。大山寺は鎌倉・室町時代には3,000人の僧兵を擁する一大勢力を誇ったが、明治初期の神仏分離政策により大山寺と大神山神社は分離された。そして冬宮は国幣小社に列せられて「大神山神社本社」となり、夏宮(大智明権現社)からは地蔵菩薩が大日堂に移されて「大神山神社奥宮」となった。以降、地元の参拝者はこの奥宮と本社の二社をお参りして、大山の御神徳を「だいせんさんのおかげ」として崇めている。
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みどころ

大神山神社奥宮への参拝は、大山寺山門手前を左、石の大鳥居(国の登録有形文化財)から奥宮参道を上がっていく。この参道は1940(昭和15)年に整備されたものであり、杉やブナの巨木のなかに自然石を敷き込んだ幽玄の趣のある参道である。長い参道を上がりきると神門に着く。この神門は入口と出口が逆になっているため後ろ向き門と言われている。この山門はもともと大山寺本坊・西楽院の表門(宮家のお成門)であったが、1875(明治8)年の廃仏毀釈により西楽院が廃止された時に大神山神社に引き渡された。そして、そのまま奥宮の門に転用されたため、入口と出口が逆になっているのである。鳥取県の指定有形文化財となっている。
 神門から石段を上がると奥宮の社殿がある。1805(文化2)年に再建されたもので、本殿・幣殿・拝殿が一体化してそれに長廊がT字型に付くという独特の形をしており、両翼は50mに達する。日本最大級の権現造りで神仏混交の様式を伝えている。内部の柱・長押には金箔に似せた色合いを出す白檀塗りの技法*で彩られ、側面には天女の壁画、格天井には花鳥風月が描かれている。なお、奥宮の背後には大山に修行登山する人の登山口(行者登山口)がある。また、奥宮に隣接して下山神社が鎮座している。これは奥宮の再建と同年に石見津和野藩主亀井矩賢が寄進したもので、下山善神(白狐)を祀っている。奥宮、下山神社ともに国の重要文化財に指定されている。
 さらに、奥宮石段下、神門の下の広場に石組みの土台が残っている。これは神仏習合であった江戸時代に大山寺の本坊となった西楽院の社殿跡である。西楽院は大山寺の寺、子院、僧坊などを全て束ねる行政府であったため、主門だけでなく僧侶と武士のために別門を持つという壮大な社殿であったとされる。西学院は明治維新後の廃仏毀釈により荒廃し、その土台にのみかつての栄華を伝えている。
 なお、米子市内にある大神山神社・本社は紫陽花の美しい神社として知られている。5月から7月になると2,000株の紫陽花が咲き誇って参拝者の目を楽しませる。主に地元の人々に祀られている神社であるが、大山参りを奥宮だけで済ませるのは片参りとなるため、奥宮参りの帰路に是非立ち寄ってみたい。
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補足情報

*大神山神社の御祭神は、大穴牟遅神(本社)、大己貴神(奥宮)(おおなむちのかみ 大国主命の別名)である。
*智明権現:牛馬の守護神として厚く崇敬され、参詣する者が多かった。
*白檀塗:銀箔を貼った上に生漆を塗ってその化学変化により金色を出す技法。欄間等に使われることはあるが、これだけ大規模のものはまれである。
*奥宮大神輿:大神山神社奥宮の神輿は台座高約3.8m、神座径約1.8m、担ぎ棒長約5.6m、重量約1tの神仏習合様式の八角神輿。外部には金箔が貼られ担ぎ棒は漆塗りである。江戸時代中期に日野郡中の寄進により奉納されたもの。あまりに重いために祭事の全てに担ぐ人を集める事はできず、現在は奥宮長廊に展示されている。
*大山山開き:大神山神社から大山寺バス停(博労座)まで登山者が松明行列を行う。暗闇の中に一筋の火の川が流れ、山開きにふさわしい光景である。
関連リンク 大神山神社
参考文献 大神山神社
「鳥取県の歴史散歩」山川出版社,鳥取県の歴史散歩編集委員会編

2024年06月現在

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