天城山あまぎさん

伊豆半島の中央部に位置する富士火山帯の連山で、伊豆半島を北の口伊豆(北伊豆)と南の奥伊豆(南伊豆)に分ける。噴出した溶岩流や火山灰が堆積してできたいわゆる成層火山で、火口は東南側が欠けた直径6.5kmの爆発カルデラをなし、外輪山は最高峰の万三郎岳(1,406m)、その東の万二郎岳(1,300m)、箒木山(1,024m)、南の三筋山(822m)などからなり、これらを総称して天城山と呼んでいる。中央火口丘として白田山、さらに遠笠山・大室山など15の側火山があり、天城山の南西部の標高1,125mには八丁池*1がある。
 山中は温暖で多量の雨により森林が豊かで、古くから木材生産地として知られ、江戸時代には幕府の直轄林「御林(おはやし)」として厳しく管理されていた。とくに天城九木*2は禁伐または伐採制限などによって厳しく守られた。このため天城九木以外にも全山でブナなど広葉落葉樹林の自然林が広がり、ヒメシャラ・アマギシャクナゲ*3・アズマツツジ・アシビの密生林となっている。また八丁池は樹上に卵を産みつけるモリアオガエルの生息地としても知られている。天城山は樹林帯に覆われているため、展望に恵まれたところは少ない。
 登山コース*4は天城高原から尾根伝いに八丁池を経て天城峠に至る縦走コース(約17.5km)が代表的だが、天城高原から最高峰の万三郎岳と万二郎岳を中心にした周回コース、旧天城トンネル*5から八丁池を周回するコースも人気がある。風水害の影響で登山道、遊歩道が荒れている個所もあるので、状況を事前に確認することが必要である。
#

みどころ

深田久弥は「日本百名山」のなかで 「天城のいいことの一つは見晴らしである。煙を吐く大島を初め、伊豆七島がそれぞれの個性のある形で浮かんでいる海が眺められるし、いつも真正面に富士山が大きくたっている。全く大きい」とし、また、若山牧水も「わが登る天城の山の うしろなる富士の高きはあふぎ見飽かぬ」と詠み、天城山の眺望の素晴らしさを縷々記しているが、全山、広葉樹林帯に覆われているため、万二郎岳付近の稜線部の一部や樹間越しに見る以外は展望に適したところは少ない。
 しかし、展望が遮られている分、そのみごとな樹林帯が「天城山のいいこと」として挙げられる。広大な森にブナをはじめ、ヒメシャラ、カエデ、マメザクラなどが混生し、とくに初夏にはアズマツツジ・アマギシャクナゲ・トウゴクミツバツツジなどの草木の花が咲き誇る。とくに万三郎岳から八丁池、天城峠までの間はブナとヒメシャラの林のトンネルが美しい。10月末から11月にかけての紅葉も素晴らしい。
 川端康成は天城の山々を愛し、「天城峠の南で南国に出会わすひと時は、とりわけ伊豆の旅情である。天城を歩いて越えなければ、まことの伊豆の旅情は身にしみないようだ。…中略…伊豆を造り、伊豆に温泉を出している火山脈のうち、天城火山が最も大きく、最も新しく、ほかの火山の灰の上にもまた火山灰を降らせたらしく、それだけに伊豆の顔の大き過ぎる鼻である」と、伊豆の旅情の中心的な役割を果たしていると記している。小説『伊豆の踊子』の舞台としても取り上げられ、山懐には湯ヶ島、湯ケ野をはじめ各所に文豪が愛でた温泉が湧いている。
#

補足情報

*1 八丁池:かつては火口湖とされてきたが、現在では天城山の斜面にある活断層のずれにより谷の最奥部に窪地が形成され、水が溜まった断層湖だと判断されている。 
*2 天城九木:江戸幕府は天城の「御林」に対して、マツ、スギ、ヒノキ、サワラ、ケヤキ、クス、カシの7種を禁伐とする「七木制(しちぼくせい)」という制度を設けた。その後さらにモミとツガの伐採を制限する制木と定め、公用以外の伐採を禁じた。これらを合わせて「天城九木」と呼んだ。
*3 アマギシャクナゲ:アズマシャクナゲの近縁種。花冠は淡紅色で、5裂するが、6-7裂する場合もある。花期は5~6月。
*4 登山コース:登山コースへのアクセスとしては、縦走コースや万三郎岳、万ニ郎岳周回コースのスタート地点となる天城縦走登山口(天城ゴルフ場行き)までは伊東駅からシャトルバスが出ている。また、八丁池方面から入る場合は、修善寺駅―河津駅間の路線バスに「バス停天城峠」があり、特定の期間、曜日によっては修善寺駅、河津駅から八丁池口まで専用バスが運行される。災害、工事などによっては運行されない場合もあるので事前確認が必要。                                                         
*5 旧天城トンネル:天城山隧道。1905(明治38)年に開通した国内で最長・最古の石造道路隧道。このトンネルの完成により、難所の天城越えは解消された。トンネルは「切り石巻き工法」で造られ、石は大仁町(現・伊豆の国市)の吉田石が使用されている。幅員4.12m、延長445.5m。
関連リンク 伊豆市観光情報サイト(WEBサイト)
参考文献 伊豆市観光情報サイト(WEBサイト)
伊豆市(天城山)(WEBサイト)
『日本百名山』深田久弥 新潮文庫
『静岡県の山』加田 勝利著 山と渓谷社

2023年10月現在

※交通アクセスや料金等に関する情報は、関連リンクをご覧ください。

あわせて行きたい