八ヶ岳やつがたけ

八ケ岳連峰*の中で、夏沢峠を境に北八ケ岳と南八ケ岳に分かれる。南八ケ岳は標高2,899mの主峰赤岳をはじめ横岳、硫黄岳、権現岳、編笠山と荒々しい男性的な岩山が連なる。北八ケ岳は白樺、カラマツの森林や草原が広がり、女性的なやさしさと豊かさを秘めている。
 成因は約300万年前、本州を南北に縦断する大地溝帯(フォッサマグナ)のほぼ中央に、連続的に噴出した成層火山が結合したものと推定される。その後の噴火や侵食のため、火山原形を指摘するのは困難だが、最後に噴火した硫黄岳の北東側には、爆裂火口が残る。
 雪が消えるのは5月になってから。麓の高原ではそのころから6月にかけてスズランやレンゲツツジが咲き乱れ、カラマツや白樺の新緑に映える。稜線付近では7月下旬~8月中旬にはコマクサやウルップソウをはじめ高山植物の最盛期をむかえる。10月の紅葉が過ぎると、雪に閉ざされた冬山の季節が始まる。
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みどころ

中央線の長坂駅から富士見駅にかかるとき、車窓から左側に壁の様にそびえる甲斐駒ケ岳、右に広大な裾野を持ち、鋭く尖った赤岳などが独立峰として美しい形を見せる。わが国でも有数の美しい山岳景観。東麓には清里(きよさと)・野辺山(のべやま)高原、西麓には蓼科高原などの広大な高原地帯を有しており、様々な形を見せる八ヶ岳がその土地土地のシンボルになっている。
 頂稜からの展望はまさに雄大で、北アルプスや富士山をはじめ、中部・関東のおもな山々のパノラマと広大な裾野の景観が展開する。
 高山植物が豊富なことでも有名で、ここで発見されたものも少なくない。「ヤツガタケ」の学名を付されたものに、ヤツガタケキンポウゲ・ヤツガタケアザミ・ヤツガタケシノブなどがある。
 それぞれのピークも個性的である。最高峰の赤岳は南北から見ると鋭いピラミッドであり、東西からは岩壁の厳しさの上に山頂がある。西の赤岳行者小屋から文三郎道の長いハシゴの登りが名物で、その他各方面からの登山道が頂上を目指している。
 編笠山はなだらかで優しい姿を見せ、苔むした原生林の山麓から中腹と頂上直下の岩だらけの登りが対照的である。登山のベースとなる青年小屋の静かで落ち着いた佇まいも魅力である。
 阿弥陀岳は赤岳に寄り添ったこぶだらけの山で、山頂付近登りは急で岩に張り付いて登る感覚である。信仰の山でもあり山頂の石碑石仏 諏訪側から見ると堂々とした山容で王者の風格がある。
 横岳は赤岳の北の山で、縦走ルートの途中で岩稜地帯をトラバースして進む。高山植物も豊富。
 硫黄岳は山頂付近の点在するケルン群や爆裂火口壁が間近に見下ろせる。硫黄岳との間の高山植物も豊富。山頂からは赤岳と阿弥陀岳が間近壁の様にせまる。
 その他、西岳、権現岳も魅力がある。(林 清)
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補足情報

*八ケ岳連峰:八ケ岳の名の起源は、多くの峰よりなるからという説や、8つの峰よりなるからという説がある。後者の場合次の8峰を指すのが一般的。編笠山(2,524m)
、西岳(2,398m)、権現岳(2,704m)、赤岳(2,899m)、阿弥陀岳(2,705m)、横岳(2,829m)、硫黄岳(2,765m)、天狗岳(2,646m)。また一般的に八ケ岳と呼ばれる夏沢峠以南は南八ケ岳といい、以北を北八ヶ岳ともいう。
*高さくらべと民謡:むかし、富士山と八ケ岳が日本一の高さを競ってけんかをしたが、決着がつかないので阿弥陀如来に決めてもらうことになった。如来が長い樋(とい)を2つの山に渡して水を注ぐと、富士山のほうに水が流れたので八ケ岳のほうが高いということになった。それを知ると富士山は怒り、足で八ケ岳を蹴とばしたので、峰が8つにくずれ、現在のような姿になったという。

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