天鏡閣てんきょうかく

猪苗代湖の北西岸、長浜を見下ろす丘陵に立つ故有栖川宮威仁親王の旧別邸で、八角塔屋(展望室)付ルネッサンス様式風の和洋折衷の2階建洋館。1908(明治41)年の建築。建物の規模は建築面積492m2 、延床面積927m2 、総高17.9mである。皇太子であった嘉仁親王(のちの大正天皇)が「天鏡閣」と命名*した。
 各部屋に配置されている、マントルピース、天井の円形飾り絵、シャンデリア、ジュータン、カーテンなどの家具、調度品などは明治から昭和に取り入れられたロココ調やアールヌーボー調のものとなっている。また、南側に隣接して有栖川宮妃の旧翁島別邸があり、こちらは1922(大正11)年に建てられた総桧造、純和風の建物。現在は福島県迎賓館*となっている。1952(昭和27)年に、両別邸を引き継がれていた高松宮宣仁親王より福島県にこれらを下賜された。1979(昭和54)年に本館・別館・表門が国指定の重要文化財に指定され、旧翁島別邸は1991(平成11)年に文化財に指定された。
#

みどころ

猪苗代湖に臨む緑の多い小高い丘の上に位置し、繁茂する木々に囲まれ落ち着いた雰囲気が醸し出されている。そのなかにルネッサンス風のグレーの外壁の建物が優雅に立つ。建物全体が洗練されており、室内の煖炉や照明器具、天井の漆喰飾りなども繊細な意匠となっており、皇族別邸の気品がうかがえる。建物上部の八角塔屋(展望室)からの眺望については、建設当時は樹林に囲まれていなかったため、猪苗代湖や磐梯山の見晴らしは良かったものの、現在は湖水は木々の間から垣間見るほどで磐梯山も山頂部を望むのみである。
#

補足情報

*1 「天鏡閣」と命名:大正期に発行された『福島県耶麻郡誌』によれば、「今上天皇陛下の未だ東宮に在りしけるとき鶴駕を此所に駐めて風光を賞せさせ給ひ御座を『天鏡閣』と宣ひて御筆を染めせられ 又宮(有栖川宮)には『天鏡餘光』と題し三島中洲翁(東宮侍講三島毅)に命じて天鏡閣の記を草せさせ給へり」とし記している。その「天鏡餘光」では猪苗代湖のことを「映寫透徹、如開一大天鏡」とし、「蓋取之李句明湖落天鏡云」と李白の句から天鏡閣の名をとったとしている。
*2 福島県迎賓館:予約制で特別公開プログラムがある。

あわせて行きたい