蔵王山ざおうさん

奥羽山脈の南部に位置し、山形・宮城両県にまたがる南北約30kmの火山群の総称である。蔵王山という固有の山はなく、最高峰の熊野岳*をはじめとする多くの峰の連なりであり、蔵王連峰ともいう。那須火山帯に属し、旧火山群の南蔵王と新火山群の中央・北蔵王*に分けることができる。古来、刈田嶺(かつたみね)と呼ばれていたが、天武天皇のころ吉野金峰山(きんぷせん)の蔵王権現を分祠したことから蔵王山と称され、明治期になるまで女人禁制の信仰の山とされてきた。
 蔵王山の火山群は、山体のすべてが溶岩などの火山噴出物から形成されているのではなく、すでに隆起していた奥羽山脈の上に、何十万年もかけて溶岩の噴出によって積み上げ、高くなっていった成層火山群である。 このため比較的平担な溶岩台地や、粘性の高い溶岩で形成された溶岩円頂丘があちこち見られる一方、時々に起こった激しい噴火で自らの山体を大きく崩壊させ、馬蹄形の爆裂火口を造り出したりした。この大きなものが、中央蔵王の馬の背、北蔵王の龍山などにみられる。
 南蔵王は、後烏帽子(うしろえぼし)・屏風岳(びょうぶだけ)・不忘山(ふぼうざん)などを外輪山とし馬ノ神(うまのかみ)岳を中央火口丘とする二重式火山として約100~10万年前に形成されたが、現在では全山緑におおわれ火山らしさはない。
 これに対し中央・北蔵王は火山としての特徴が随所に見られる。中央蔵王は熊野岳・刈田岳(かつただけ)*を外輪山とし、五色岳を中央火口丘とする二重式火山である。山頂部では、火山弾の堆積や火砕流によってもたらされた火山砕屑岩も多く、現在も火山活動は続いている。 蔵王のシンボルともいえる御釜*は熊野岳、刈田岳、五色岳に囲まれた火口湖で、太陽光線によって湖水の色が変わり、神秘的な景観となっている。五色沼とも呼ばれる*。
 現在では、全山で山岳道路・ロープウェイなどが整備され、温泉宿泊施設、スキーリゾートなどの観光開発が進んでおり、アクセスしやすい山となっている。このため、蔵王山は四季を通じて多面的に楽しむことができる。4月下旬の山開きのころは山頂付近では春スキー、新緑に包まれる6月ごろからはコマクサをはじめとする高山植物が咲きそろい、バードウォッチングや登山・トレッキング*など登山客、観光客で賑わいをみせる。9月に入ると紅葉が始まり10月には紅葉、初雪が見られ、1月半ばから2月にかけては、蔵王温泉からのロープウェイが架る地蔵山山頂直下などで蔵王の冬の風物詩である樹氷が最高潮に達する。
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みどころ

蔵王の大きな魅力は、自然と親しむアウトドアのレジャーだが、それに劣らないのが、山形県側の蔵王温泉、宮城県側の遠刈田温泉など山麓に点在する多くの温泉だ。スキーリゾートとして楽しめる温泉から鄙びた山の湯までさまざまな形態の温泉群がある。
 深田久弥が「山上湖は蔵王の宝玉とも言うべき存在」であり、「妖しく濃い緑色で、噴火口 特有の一種悽惨な趣」と称賛している蔵王のシンボルでもある御釜は、蔵王エコーラインなどで比較的容易にアクセスでき、幅広い層の観光客を集めている。一方では、「何の苦労 もなくお釜見物も出来るようになったが、それだけ魅力も少なくなった」とも深田久弥は述べており、観光開発のバランスの難しさも考えさせられるものがある。
 バブル期を中心として進んだ観光開発が、施設の老朽化や、コンセプトと現代の観光客のニーズとの間の多少のギャップも生んでいる。今後、インバウンドマーケットの動向もみつつ、大自然を生かした観光地づくりに期待したい。(志賀 典人)
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補足情報

*熊野岳:標高1,841m、蔵王山の最高峰で、頂上に蔵王神社と斎藤茂吉の歌碑がある。山肌は緑が少なく、火山特有の岩原となっている。北側は鋭く切り立ち、眼下に地蔵山・三宝荒神山を見渡し、南は馬ノ背を経て刈田岳へと続いている。冬は樹氷群がみごと。なお、蔵王山には、蔵王山頂と呼ばれるところは2ケ所あり、御釜を望む刈田岳山頂と、蔵王ロープウェイ終点の地蔵山・三宝荒神山の鞍部を指す。最高峰の熊野岳へはこの両地点から徒歩となる。
*旧火山群の南蔵王と新火山群の中央・北蔵王:蔵王山については、中央と北を合わせ北蔵王として南北の2つに分ける場合、あるいは刈田岳や熊野岳付近を中央蔵王として、東西南北の5つに分ける場合もある。
*刈田岳:標高1,758m、熊野岳の南、馬ノ背の尾根に続く。山頂に刈田嶺神社奥宮がある。御釜の展望台として有名。蔵王ハイラインが通じており山頂直下まで車で行くことが出来る。
*御釜:約3000年前にできたもっとも新しい爆裂火口で、これに水が溜まり、湖となった。水深約25m、周囲約1km。湖水は強酸性のため魚類をはじめ生物は生息できない。
*五色沼とも呼ばれる:お釜が五色沼とも呼ばれる理由を深田久弥は「横縞に入っている色彩が、何とも言えぬ微妙な美しさを呈している。鉄錆色とでも言うか、それを主調に、いろいろの色が混っている」ためだとしている。
*登山・トレッキング:樹氷高原駅近くからの夏山リフトで手軽に行くことができ、盆栽のようなトドマツや高山植物を観賞できる観松平、いろは沼への初級者向けコースから南北蔵王縦走コースの本格的な登山まで、多様なコースが楽しめる。
関連リンク 蔵王温泉観光協会(WEBサイト)
関連図書 『山形県の歴史散歩』山川出版、2011年、深田久弥著『日本百名山』新潮社
参考文献 蔵王温泉観光協会(WEBサイト)
山形県立博物館(WEBサイト)
山形大学蔵王樹氷火山総合研究所(WEBサイト)
山形県

2020年12月現在

※交通アクセスや料金等に関する情報は、関連リンクをご覧ください。

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