十和田湖とわだこ

青森・秋田の県境にまたがる二重カルデラ*1湖。湖は東西約10km、南北約10km、面積は約61km2で、南側から中山・御倉(おぐら)の両半島が突き出し、全体としてはクルミを割ったような形をしている。水面標高は400m、最大水深は327mと秋田県の田沢湖、北海道の支笏湖に次いで第3位である。貧栄養湖*2で、透明度*3は約12m、水色はフォーレル3号*4と呼ばれる青藍色をしている。周囲は約46kmで水面より200~600mほど高い外輪山に囲まれ、いずれも湖岸に向けて急傾斜をなしており、外輪山の外側には混交林が広がっている。湖は2つの半島によって区分された水域ごとに、子ノ口(ねのくち)寄りの東湖、両半島に抱かれる中湖、休屋側は西湖と呼ばれている。
十和田湖の成因については、カルデラ湖のもととなる十和田火山が22 万年前以降に活動を開始し、その活動は、先カルデラ期(22~6.1万年前)、カルデラ形成期(6.1~1.5万年前)、後カルデラ期(1.5 万年前~現在)の 三つの期間に区分される。先カルデラ期では、度重なる噴火により複数の成層火山が形成された時期で、カルデラ形成期には大規模な火砕流噴出が複数回発生して火山体の中心部の陥没が進み、十和田カルデラ、すなわち十和田湖の原型が形成されたと思われている。後カルデラ期は、十和田カルデラ内で成層火山が形成して陥落し、中湖が形成されたという。この中湖は十和田湖の最深部となっている。湖の中央に突き出している中山・御倉の両半島は、陥没した火山体の残存部にあたる。また、約1.5万年前、湖岸の決壊が大洪水をひき起こし、現在の奥入瀬渓流の原形が形成されたと推定されている。十和田火山の最新の噴火は915(延喜15) 年*5に発生し,中湖カルデラを噴出源として火砕流が広域に流れ下ったとされる。
湖には周回道路で一周することができ、外輪山の各所からは湖を眺望するのに格好な場所となっていて多くの展望台*6が整備されており、とくに御鼻部山・瞰湖台・発荷峠などがよく知られている。外輪山から奥入瀬にかけての森林は、大半がブナ・ナラなどの広葉樹で、その下をササが深くおおっている。秋には広葉樹の黄葉、楓・ナナカマドの紅葉、マツの緑が湖水に映える。湖には明治後期のヒメマス*7の放流まではまったく魚は生息しなかったが、現在では湖水養殖のサクラマスやコイなども群れをなしている。湖畔の林内にはシジュウカラ・ゴジュウカラ・アカゲラなどの鳥類も多い。
湖畔の中心は南岸にある休屋で、青森や八戸のJRバスもここで折り返し、宿泊施設や食事処、お土産売り場が集まり、遊覧船・貸ボート・モーターボート*8などもある。ここからは西岸に向かい御前ヶ浜が広がり、探勝路を歩けば、高村光太郎の乙女の像や、鎌倉時代以前からの修験場で青龍伝説もある十和田神社などを巡ることができる。
年中行事としては例年7月の第2土・日にはバルーンランタンを打ち上げる「十和田湖湖水まつり」や冬季には冬花火などが楽しめる「十和田湖冬物語」が開催されている。
十和田湖へのアクセスは、青森駅・新青森駅と八戸駅からJRバスが焼山・奥入瀬渓流経由で十和田湖畔休屋まで運行。ただし、冬季(例年11月上旬~4月中旬)は特定期間の臨時便を除き運休。途中の焼山までは通年には路線バスが運行している。このため、冬季はタクシーやレンタカー、マイカー利用のみだが、道路状況や天候により通行止めとなる道路も多いので事前の確認が必要。宿泊施設は南岸、西岸に多い。
#

みどころ

明治から大正期の紀行作家大町桂月は「十和田湖の勝景の大要をあげむに、『山湖』として、最も偉大なること、一也。奧入瀬の溪流の幽靜(ゆうせい)、天下無比なること、二也。湖の四周の山ばかり樹のしげりたるは、他に比なきこと、三也。紅葉の美、四也。中海の斷岸高く、水ふかきこと、他に比なし、五也。諸島みな岩にして、松を帶びたること、六也。奧入瀬本流支流に、高きは松見の瀧、廣きは根の口瀧を始めとし、見るべき瀑(ばく)の多きこと、瀑布(ばくふ)多しと稱せらるゝ日光、鹽原などの比にあらざること、七也。」とし、「十和田湖は、風光の衆美を一つに集めたる、天下有數の勝地也。」と賞賛し、十和田湖の国立公園への選定に尽力したほどである。たしかに夏の新緑、秋の外輪山を彩る紅葉、冬の雪化粧と四季折々に姿を変える色合いを、青藍色の湖水に映す様はどの季節に訪れても素晴らしい。
また、文豪泉鏡花が「十和田湖の夏霧」のなかで「私は休屋の宿の縁に—床は高く、座敷は廣し、襖は新しい—肘枕して視めて居た。草がくれの艫に、月見草の咲いた、苫掛船が、つい手の屆くばかりの處、白砂に上つて居て、やがて蟋蟀の閨と思はるゝのが、數百一群の赤蜻蛉の、羅の羽をすいと伸し、すつと舞ふにつれて、サ、サ、サと音が聞こえて、うつゝに蘆間の漣へ動いて行くやうである」と、外輪山に囲まれ下界と切り離されたようなその清閑な湖の佇まいを表現している。
#

補足情報

*1 カルデラ:ラテン語の「caldaria」が由来。スペイン語やポルトガル語では「鍋」を意味する。火山の地表にできる直径1~2km以上の窪地のことを指す。この窪地に水が溜ってできたのがカルデラ湖。
*2 貧栄養湖:水中に有機物が少なく生物が住みにくい湖。火山性、高山性の湖に多い。
*3 透明度:直径25~30cmの白色円板を水中に沈めて見えなくなる深度とふたたび引き上げて見えはじめる深度との平均値。十和田湖が比較的透明度が高いのは、山上のカルデラ湖で流れ込む大きな川がないためだとされている。わが国では摩周湖の25m(1931年測定時では41.6m)が最深。
*4 フォーレル3号:湖沼などの水面の色を表わす分類で、スイスの湖沼学者フォーレルが規定したフォーレル水色標準液による水色の一つ。標準水色は藍色から黄色まで11階級に分かれている。
*5 915(延喜15)年:平安末期の歴史書「扶桑略記」には同年七月五日の条に「日无暉。其貌似月。時人奇之」とあり、さらに同月十三日条には「出羽国言上雨灰高二寸、諸郷農桑枯損之由」とあって、都で、日が陰り、出羽では灰が降り、桑などの農作物に被害があったと記され、降灰に関する地質学的な調査結果と合わせると十和田火山の噴火とみられている。
*6 展望台:御鼻部山(標高1,011m)からは御倉、中山の2つの半島が湖面を抱くように突出する景観を眺望。中湖に面した絶壁の上にある瞰湖台(同583m)からは中山半島を映し出す湖面を眺望。発荷峠(同631m)からは正面に十和田湖越しに南八甲田の櫛ケ峰を望む。発荷峠から小坂町への樹海ラインの途中にある紫明亭(同630m)は西湖と休屋の展望を楽しめる。発荷峠から外輪山沿いに東に行ったところにある甲岳台(同670m)からは西湖を見渡すことができる。十和田山は湖の東にそびえる外輪山の最高峰(同1,054m)で、十和田湖を眼下に、八甲田、岩木山、八幡平などを望む。十和田山へはハイキングあるいは山歩きの装備が必要。
*7 ヒメマス:サケ科ベニザケの陸封型で原産地は阿寒湖といわれる。10~13度の低水温を好み、生後3~4年で成熟。体長は17~30cm。しかし、近年は不漁の傾向が見られる。かつて十和田湖にはヒメマスなどの魚が生息しなかった。これは銚子大滝があるために、奥入瀬の魚が遡上できなかったためといわれている。当時、毛馬内(現鹿角市)出身で小坂鉱山の吏員だった和井内貞行(1858~1922年)は、湖での養魚をこころざし、私財を尽して情熱をそそいだ。度重なる試みの末、1905(明治38)年北海道支笏湖産のヒメマス(カバチェッポ)をふ化した稚魚の養殖に成功し、「われ、幻の魚を見たり」と喜びの声を上げた。ヒメマスが定着できたのは、十和田湖の水深が深く、最適な低水温の場所が年間を通じ確保できたことにあるという。ヒメマスは現在でも名産のひとつであり、貞行の業績は和井内の地名に残されている。
*8 遊覧船・貸ボート・モーターボート:遊覧船は休屋からのおぐら・中山半島めぐりコースと休屋-子ノ口航路の2コース。休屋では貸しボート以外にパワーボートクルーズ、カヌーツアーなども楽しめる。一部は冬季休業となる。また、キャンプ場は南岸の宇樽部、生出と西岸の滝の沢にある。

あわせて行きたい