男鹿西海岸おがにしかいがん

秋田県の中央部、日本海に突き出している男鹿半島は、かつては、本土から切り離されていた島であったが、北側の米代川と南側の雄物川などが運んだ土砂により成長した砂州、砂丘がつながり、八郎潟を抱える形で陸繋島となり半島となった。
 半島は海岸段丘が発達しており、さらに西部には標高715mの本山(ほんざん)火山群、東部には標高355mの寒風山(かんぷうざん)火山、北には標高567mの真山(しんざん)、南に標高677mの毛無山(けなしやま)の両火山がある。また、北西部海岸近くには男鹿目潟火山群を構成する一ノ目潟、二ノ目潟、三ノ目潟のマール群*1があり、その海岸部にある戸賀湾はタフリングが海食により沈水したものと推定されている。これらの半島の山々はスギ林が覆っている。
 西海岸においては、入道崎*2から門前、潮瀬崎にかけて本山・真山の火山群が海に迫り急崖を形成し、日本海の激しく波に洗われた結果、海食が進み、荒々しい雄大な景観を生んでいる。とくに加茂から門前までは大桟橋(だいさんきょう)*3・孔雀ヶ窟・ゴジラ岩*4など奇岩怪石が続く。また、門前は男鹿半島や本山の信仰の中心で、伝承も数多い赤神神社五社堂への参道の入口になっている。
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みどころ

男鹿半島の西海岸では日本列島が大陸から分かれの日本海誕生の歴史も含め、7千万年からの地層を観察できるところもあり、単に奇岩怪石の形や景観の素晴らしさばかりではなく、地層、地質学的な興味を広げてくれる。これらの景観は、西海岸を走る県道59号線(おが潮風街道)の各所にある展望台から遠望できるが、門前港などから出る遊覧船*5に乗れば、海上から間近に楽しむことができる。とくに大桟橋をくぐったり、孔雀ヶ窟に船ごと入洞したり、神秘的で迫力ある海景を堪能できる。入道崎からも遊覧船が就航している。
 男鹿半島の西海岸の北部を一望するのには、一ノ目潟と二ノ目潟の間にある八望台が良い。一ノ目潟、二ノ目潟や戸賀湾を見渡し、本山、真山、寒風山を遠望できる。八望台付近からの眺望を江戸後期の紀行家菅江真澄は「恩荷奴金風(おがのあきかぜ)」のなかで「鋤臺山(かんだいやま)といふ峡(かい)を分出て、蓼沼の平(たい)の披(ひら・ひらけたところ)から二の女滷(目潟)をのぞみ、渡鹿(戸賀)の浦囘(うらみ・曲がりくねった入江)の根太嶋・鹽(塩)戸のはなれ磯にある宮嶋などをみやり、芝生に時のうつるまでありて、ふたたび大平(おおたい)に來て一の女滷(目潟)に臨む。水の面のいとひろく、その深さははかりもしらじ」と描写している。
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補足情報

*1 一ノ目潟、二ノ目潟、三ノ目潟のマール群:マールとは水とマグマが接触して起こるマグマ・水蒸気爆発によって形成された円形の爆裂のことで、二ノ目潟、一ノ目潟、三ノ目潟は爆裂が激しく周辺に噴出堆積物が少なく、通常遺される環状丘の盛り上がりが少ない。一ノ目潟、二ノ目潟、三ノ目潟の順番で形成され、一ノ目潟の形成年代は6万〜8万年前といわれている。一ノ潟は直径約600m、水深約44.6m、二ノ目潟は直径約400m、深さ11.8m、三ノ潟は直径約400m、深さ31mでいずれも淡水湖。
*2 入道崎:男鹿半島の先端。入道埼灯台は1898(明治31)年に点灯を開始し、高さは28m。灯台からは入道崎と周辺の地磯、沖合いの水島などを一望。灯台資料展示室も併設されている。灯台の東にある鹿落とし(ししおとし)は、半島で増えすぎた鹿をこの崖から追い落としたことからその名が付いた。 西側には、鬼の俵ころがしという地磯が広がる。 ピンク色系の花崗岩の割れ目にマグマが上がってきて、茶色の玄武岩が固まった岩脈で、茶色の玄武岩が一筋のびており、鬼が米俵をころがした跡のように見えることから、この名となったといわれる。
*3 大桟橋:大きな岩が波にくり抜かれて橋の形になっている。菅江真澄の「牡鹿の嶋風(おがのしまかぜ)」では「その形梁のごとく、山橋ともいふとか。さんきやうは、石橋(しゃくきやう)をよこなはり(横訛・なまる)ていうにや、世にあやしう面白ところ也けり。帆筵掛ながらはせ入る舟もありき」と記している。県道59号線(おが潮風街道)から遠望できるが、見学は遊覧船からがおすすめ。
*4 孔雀ヶ窟・ゴジラ岩:孔雀ヶ窟は、男鹿西海岸の最大の海食洞でニホンユビナガコウモリの繁殖場所。遊覧船が洞内まで入る。ゴジラ岩は、波に侵食された平らな地形が少し隆起した潮瀬崎が、さらに約3000万年前に噴出した火山礫凝灰岩の風化によって創り出された奇岩。遊覧船からの見学となる。ゴジラ岩の名は形が「火を吹く怪獣ゴジラ」に似ているということから1995(平成7)年に名付けられたもの。潮瀬崎について菅江真澄は「恩荷奴金風(おがのあきかぜ)」では「目をおとろ(驚)かしたるは鹽湍(潮瀬)の岬也。筆にもこと(言)葉にも、なかなかのなかめ(眺め)にこそあらめ・・・中略・・・磯の巌はみな髙濤にうちかくろひ(隠れ)、うちあらはれ(現れ)たるなとおかし」と描写している。
*5 遊覧船:門前港からは西海岸周遊クルーズ(所要60分)が就航。入道崎では、海底透視船が就航している。各遊覧船とも季節運航で、天候により就航しないこともあるので、事前確認が必要。

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