森野旧薬園
近鉄大阪線榛原駅から南へ約7km、旧街道に面して「元祖吉野葛」の看板を掲げる森野吉野葛本舗の裏山に広がるのが森野旧薬園である。1729(享保14)年に幕府薬草御用植村政勝(左平次)*1が大和へ薬草の採取に赴いた折り、葛粉製造を生業とする森野家の11代目森野通貞(初代・藤助)*2がこれに随行した。森野通貞(藤助)はその功によって幕府から貴重な薬草6種を拝領し、これを自宅の裏山に植えた。これが森野薬園の始まりで、唐種を中心とした貴重な薬用植物の栽培が行われ、その後も森野家は代々薬草の研究と薬園の整備に努めた。現在でも江戸時代の薬草園の姿がそのまま残されている数少ない民間の薬草園で、約250種類の薬草木を栽培している。かつて書斎兼薬草研究所であったといわれる桃岳庵も現存する。森野家は江戸期、吉野葛*3や薬草に加えて、カタクリの根を精製した片栗粉の製造も手掛け、幕府に上納していた。吉野葛の製造販売は現在も継続。片栗粉はもう作っていないが、旧薬園には今もカタクリが栽培され、4月上旬ごろに可憐な紫色の花を咲かせる。
みどころ
森野吉野葛本舗の店舗脇にある葛の晒し場を通り、急な石段を上ると、薬草の畑が広がっている。薬草木にはそれぞれ名札が付され、植物名や薬効が記されている。一段高いところには桃岳庵がひっそり建つ。のどかで風情ある建物であるが、森野家代々の当主がここで薬草の栽培、研究を行っていたと聞かされると感慨深い。
薬草園は江戸時代には、幕府、諸藩において全国各地に設けられ、商人、本草学者などにより民間の薬園も各所に創設されたが、明治以降次々と廃園となった。現在も当時の様子を維持しながら、実際に薬草が栽培されているところは極めて珍しい。
店舗では、吉野葛や葛菓子が販売されているので、こちらの上品な味を賞味してみるのもよいだろう。
薬草園は江戸時代には、幕府、諸藩において全国各地に設けられ、商人、本草学者などにより民間の薬園も各所に創設されたが、明治以降次々と廃園となった。現在も当時の様子を維持しながら、実際に薬草が栽培されているところは極めて珍しい。
店舗では、吉野葛や葛菓子が販売されているので、こちらの上品な味を賞味してみるのもよいだろう。
補足情報
*1 植村政勝(左平次):1695(元禄8)~1777(安永6)年。号は新甫。和歌山藩の郷士で、吉宗が将軍となった際、江戸へ随行。奥御庭方と駒場薬園の監理を任じられていた。情報収集と採薬のため、全国各地を再々巡回した。1729(享保14)年にも、大和、紀州などを訪れ、その際に森野通貞(藤助)が薬草の採取の見習いとして随行した。この大和巡回の時に、植村政勝は吉野郡下市において願行寺薬園、堀池薬園などの薬草園を造成している。こうした活動を「諸州採薬記」などにまとめている。
*2 森野通貞(藤助):1690(元禄3)~1767(明和4)年。本草家。号は賽郭。森野薬草園を立ち上げるとともに、図譜「松山本草」などを著し、薬草、漢方薬の研究、製造販売にあたった。植村政勝「諸州採薬記」には1729(享保14)年4月3日の宇陀郡室生村の項で「見習宇田(陀)松山町蔦(葛か?)屋森野藤介」の名が出て来る。これ以降大和国内の採薬に随行したとみられる。
*3 吉野葛:多年草マメ科の葛は秋の七草のひとつで、花は可憐優雅なお茶花として親しまれ、また煎じたものは薬草として利用され、茎は強い繊維質であることから葛布が作られていた。葛の根はデンプン質が豊富で、このデンプンを精製したものが葛粉である。吉野地方では極寒期に地下水のみで繰り返し精製、乾燥させた葛粉を江戸時代から特産として製造しており、これを「吉野葛」と称し、とくに良質なものは「吉野本葛」として地域ブランド化している。「吉野葛」「吉野本葛」は日本料理や和菓子などに幅広く使われている。
*2 森野通貞(藤助):1690(元禄3)~1767(明和4)年。本草家。号は賽郭。森野薬草園を立ち上げるとともに、図譜「松山本草」などを著し、薬草、漢方薬の研究、製造販売にあたった。植村政勝「諸州採薬記」には1729(享保14)年4月3日の宇陀郡室生村の項で「見習宇田(陀)松山町蔦(葛か?)屋森野藤介」の名が出て来る。これ以降大和国内の採薬に随行したとみられる。
*3 吉野葛:多年草マメ科の葛は秋の七草のひとつで、花は可憐優雅なお茶花として親しまれ、また煎じたものは薬草として利用され、茎は強い繊維質であることから葛布が作られていた。葛の根はデンプン質が豊富で、このデンプンを精製したものが葛粉である。吉野地方では極寒期に地下水のみで繰り返し精製、乾燥させた葛粉を江戸時代から特産として製造しており、これを「吉野葛」と称し、とくに良質なものは「吉野本葛」として地域ブランド化している。「吉野葛」「吉野本葛」は日本料理や和菓子などに幅広く使われている。
関連リンク | 森野吉野葛本舗(WEBサイト) |
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参考文献 |
森野吉野葛本舗(WEBサイト) 奈良県ホームページ「奈良県薬業史」 植村政勝「諸州採薬記」享保14年 9/75 国立国会図書館デジタルコレクション 奈良県歴史文化資源データベース「いかす・なら」(WEBサイト) 吉田弘「植村佐平次政勝採薬行」2009年 東京家政大学博物館紀要14巻 |
2024年12月現在
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