吉野葛よしのくず

多年草マメ科のクズは秋の七草のひとつで、花は可憐優雅なお茶花として親しまれ、また煎じたものは薬草として利用され、茎は強い繊維質であることから葛布が作られていた。葛の根*1はデンプン質が豊富で、このデンプンを精製したものが葛粉であり、料理や菓子の材料に使われる。吉野地方では極寒期に地下水のみで繰り返し精製する「吉野晒(さら)し」を行い、これを乾燥させた葛粉を江戸初期から特産品*2として製造してきた。これを「吉野葛」と称し、とくに良質なものは「吉野本葛」*3として地域ブランド化している。「吉野葛」「吉野本葛」は料理や菓子などに幅広く使われている。
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みどころ

奈良県の各所で手に入れることができるが、宇陀市や吉野町、御所市にある江戸時代から続く老舗の本店に立ち寄り、往時の雰囲気を楽しみたいもの。また、県内には吉野本葛や吉野葛を使って伝統的な和菓子や新作の菓子などを提供する店やカフェも多いので、賞味をお勧めしたい。
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補足情報

*1 葛の根:古くから薬や救荒食料として知られ、吉野山、大峰山で修行する修験者らが、葛の根を掘り、その葛根から精製した澱粉を食していたとも言われる。また、吉野の国栖(くず)に住む山人が里に売り出ていたことからクズと称され、のちに葛の漢字があてられるようになったとも言われている。博物学者の貝原益軒が1709(宝永6)年に刊行した「大和本草」のなかでも「生根ヲツキクタキ汁ヲトリ水飛バシ曝シテ粉トス葛粉ナリ、其功用多シ薬トシ餈糕(もち)トス味最好シ又粉ヲ水ニ和シ沸湯ヲ多ク加フレハ糊ノ如シ」とし「功能多ク且飢渇ヲ救ヒ甚民用ニ利アル」と紹介している。
*2 特産品:享保年間(1716~1736年)に編纂された地誌「大和志」では吉野郡と宇陀郡の土産の項に「葛粉」が挙げられている。とくに吉野郡の項では「其ノ色潔ク白 味亦(又)甚(ダ)佳 因(リテ)名品ト為ス」と評している。また、貝原益軒が1713(正徳3)年発行の「和州吉野山勝景図」でも吉野郡の項のなかで土産物として最初に「葛」を挙げている。
*3 吉野本葛:吉野地方は水質がよく、冷涼・寒暖差がある気候であることから、「吉野晒し」の製法に向いており、良質な葛粉が生産できる。地域ブランドとしての「吉野本葛」は葛デンプン100%で作られる真っ白な本葛のことを指し、これで作った料理や菓子は、口あたりがなめらかで上品な透明感と艶が特徴である。単に「吉野葛」とした商品にはサツマイモなどから精製したデンプンが混ぜられている。また、「吉野」あるいは「吉野特産」「吉野名産」と表示できるのは、奈良県の吉野地方及びその近辺で精製されたものに限られている。

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