春日山原始林かすがやまげんしりん

奈良市の中心部から東に位置し、稜線を形作っているのが春日山で、奈良の市街から手前に見えるのが、春日大社の神山である御蓋山*1(標高297m)、その奥に標高498mの花山があるが、この両方、または一方を「春日山」と呼ぶ。この春日山を中心として北側に若草山(標高342m)、南側に高円山(432m)を見る面積298万m2の森が春日山原始林である。国の特別天然記念物に指定されている。この原始林は、平安時代に仁明天皇の勅命*2により狩猟伐採が禁じられて以来、春日大社の神域として、千年以上もの間守られてきた森*3であるため、シイ・カシ類の他に「春日杉」として価値の高いスギやモミ・ツガ等の針葉樹、イロハモミジやイヌシデ等の落葉広葉樹、シダ類、苔類など希少種を含む多様な植生が残されている。野鳥、シカやムササビ、昆虫類も豊富に棲息している。
 また、神山であることから、平安時代から鎌倉時代には修験僧たちの修行の場ともなったため春日山石窟仏などの史跡も遺され、春日大社の末社も点在している。さらに平城京に近いこともあり、古代の人々からも親しまれ、万葉集*4などにも数多くの歌に詠み込まれている。
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みどころ

春日山原始林を楽しむには、約11.5kmのハイキングコース(春日山遊歩道)を歩くのが良いだろう。滝坂妙見宮、首切地蔵、鶯の滝、若草山に立ち寄りながら、カゴノキ、イロハモミジ、イヌザクラ、イヌシデ、ツクバネガシなど数多くの樹種を観察しつつ、バードウォッチングを楽しむハイキングとなる。アップダウンのある林間コースなので、トレッキングシューズなどの足回りの準備と、途中、売店がないので飲料水、弁当などの持参が必要。
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補足情報

*1 御蓋山:御蓋山は三笠山、御笠山とも記される。なお、北の若草山を三笠山とすることもある。
*2 仁明天皇の勅令:「続日本後紀」の841(承和8)年3月の条に「大和國添上郡春日大神々山之内。狩猟伐木等事。令當國郡司殊加禁制」と春日大社の神山を狩猟や木々の伐採を禁制にした旨の記事がみえる。
*3 守られてきた森:平安時代に狩猟や木々の伐採が禁止された以降も、一部では東大寺や興福寺が樒(シキミ)を採取したり、薪の伐採など人間に利用されることもあったが、倒木などの災害があった場合は植生植相を維持するために在来種の植林を行い、原始林の維持に努めてきた。
*4 万葉集:柿本人麻呂「九月の時雨の雨にぬれとほり 春日の山は色づきにけり」(九月の時雨のあめに、木の葉がすっかりぬれとおって、春日の山は美しく色づいたことである。佐佐木信綱・訳)、詠人不知「春日山おして照らせるこの月は妹が庭にもさやけかりけり」 (春日山を、おしなべて照らしておる此の月は、わが愛する人の家の庭にも、清く照っておることである。佐佐木信綱・訳)などがある。

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