賀茂競馬かもくらべうま

賀茂別雷(かもわけいかづち)神社、通称「上賀茂神社」境内で5月5日に行われる神事。地下鉄烏丸線北山駅から徒歩約15分、市バス上賀茂神社前からすぐ。
 葵祭の前儀のひとつで、1093(寛治7)年以来の伝統をもつ。もとは宮中で催された競馬会に由来する。左方(さかた)、右方(うかた)*の2組に分かれて馬の競馳(きょうち)を行い、天下泰平五穀豊穣を願う。古来、上賀茂神社神職である社家の当主たちが騎手である乗尻(のりじり)*を務め、団体戦でそのスピードを競い合う。左方が勝つと豊作になると言われている。馬場は一の鳥居から二の鳥居までの西側芝生約200mの間で行われ、伝統的な作法、装束が受け継がれている。
 徒然草に「五月五日、賀茂の競馬を見侍りしに、車の前に雑人立ちへだてて見えざりしかば、云々」と当時の競馬の賑わいが記されている。江戸時代の賀茂競馬の様子は、賀茂葵競馬図屏風や上賀茂競馬会図屏風などの屏風絵にも描かれている。また、正岡子規は「くらべ馬おくれし一騎あはれなり」と詠んでおり、賀茂競馬は俳句において季語にもなっている。
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みどころ

13時から競馬会の儀があり、14時から競馳が始まる。芝生の両側に埒(らち)つまり柵を設け、走路の東側中央に神様を迎える頓宮(とんぐう)を建て、西側に見物席の桟敷が設置される。馬場に沿って3本の木があり、初めの1本を「馬出しの桜」、中ほどを「鞭(むち)打ちの桜」*、最後の1本を「勝負の楓」とよぶ。4日前の5月1日には「足汰(ぞろ)えの儀」があり、当日にも細かい式作法が定められる。出場する馬が集まり、浄衣姿の乗尻が走らせて、その遅速や乗尻の技量を調べ、左右の組合せ、順番を決める。競馬当日、境内を流れる「ならの小川」で馬の脚を清め、10~12人の乗尻が左方、右方に分かれて馬場に入場する。左方、右方の2頭が走路の半分くらいまで進み、現在の競馬のパドックのように走路を7回半回った後に、くるっとゴール方向に向き1馬身ほど差をつけてスタート*。ゴール時に1馬身より広がれば前の馬の勝ち*、狭まれば後の馬の勝ちとなる。こうした作法や競争のルールなどがスピーカーでアナウンスされるのでわかりやすい。乗尻の舞楽装束とともに鞭さばきや馬が駆ける迫力に圧倒される。
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補足情報

*左方・右方:社殿から向かって左が左方、右が右方。舞楽の装束を着け、左方は赤系の打毬楽(だきゅうらく)、右方は黒系の狛鉾(こまほこ)の装束である。
*乗尻:山背国(京都)の大豪族、賀茂県主一族の後裔である社家の人たちが代々務めてきた。現在も(一財)賀茂県主同族会の会員が、陰陽道に基づく古儀を忠実に継承して騎乗する。
*鞭打ちの桜:このあたりで鞭を入れ始め、自身を鼓舞する大声を発する。
*スタート:勝負する2人の馬尻が顔を合わせる「冠合わせ」がスタートの合図。
*勝ち:最初に走る2頭は必ず左方が勝つことになっている。

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