穂高岳ほたかだけ

北アルプスの南部に連なり、東に梓川、西に蒲田川の清流が流れる。上高地から梓川の上流へ向かうと、つねに穂高連峰が左側にそびえている。わが国第3位の高峰、奥穂高岳(3,190m)を中心に北の涸沢岳3,103m・北穂高岳3,106m、吊尾根*で結ばれる南東の前穂高岳3,090m、南西の西穂高岳2,909mからなり、総称して単に穂高岳と呼ばれている。
 山体は太古の地殻変動と火山活動により形成された峻険な裸岩で、男性的な魅力に富んでいる。特に奥穂高岳と西穂高岳の間はジャンダルム*と呼ぶ巨大なコブ状の岩峰をはじめ凹凸が激しく難所中の難所である。また、前穂高岳東壁と北尾根の屏風岩、北穂高岳西側の滝谷は、ロッククライマーが競い合った垂直に近い岩壁である。また岳沢や涸沢など山肌を削るカール*とU字谷は、氷河期の名残であり、この山容を特徴づけている。
 登山には岳沢から前穂高岳、涸沢から奥穂高岳、槍ケ岳から北穂高岳経由の縦走も多い。北穂高山頂と奥穂高岳北側に山小屋があり、中腹では涸沢や岳沢にも山小屋がある。
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みどころ

残雪の時期は黒い岩の山肌と窪地や北側に残る白い雪とのコントラストが美しい。梅雨に入ると純白のコナシの花が徳沢園などで咲きほこり、登山道をシャクナゲが彩る。
 高山植物が一斉に花開く7月中旬からが夏山シーズン。涸沢カールは日本最大のもので、盛夏でも雪が残り、その合間にハクサンイチゲ、ミヤマキンポウゲなどの高山植物が咲きほこる。涸沢からは三方向に前穂高岳、奥穂高岳、涸沢岳、北穂高岳の3,000m級の山々が取り囲み、残った一方向の谷間からは常念岳や大天井岳が美しい姿をのぞかせ、大自然の魅力と登山の醍醐味を存分に堪能させてくれる。
 どの方面から見ても豪快な山容であるが、最も美しい穂高連峰の姿は上高地の河童橋周辺からであろう。左側に凹凸の激しい岩峰の西穂高岳、中央に最高峰奥穂高岳、右側に吊尾根の美しい曲線の後に前穂高岳が立ち並び、翼を広げた蝙蝠のようなバランスのよい姿を見せ感動を覚える。
 周辺の山々からだと、特に東側の蝶が岳~常念岳の稜線から、また、反対にまわって西側の笠ヶ岳から見る岩壁の姿は特に迫力があり、北側には大キレットを挟み槍ヶ岳までの3,000m級の山々が続いて見える。
 釜トンネル*が開通する以前、島々から上高地に向かう時のアプロ―チ登山道、徳本峠(とくごうとうげ)越えは峠まで登り切った時に突然目に穂高が飛び込んでくる。W.ウェストン*も「日本で一番雄大な眺望のひとつ」と大絶賛した。今でも徳本峠越えのルートは魅力的なアプローチであり、山好きな人には一度は経験することをお勧めする。(ただし、現在は災害により上高地側のみ通行可。)(林 清)
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補足情報

*吊尾根:登山用語。2つのピークを結んで吊橋のようななめらかな美しい弧を描く稜線をいう。奥穂高岳と前穂高岳を結ぶ吊尾根はその代表。
*ジャンダルム:登山用語。本来、前衛の意で、主峰の手前の稜線上に突き出た岩峰をさす。穂高のほか、剣岳、南アルプス塩見岳のジャンダルムが知られる。
*カール:氷河時期、斜面に固まった雪が氷河となりその重みで下方に少しずつ滑り落ちる時に地面を削っていく。そのあとの地形は、氷河がとけた時期になるとスプーンですくったような地形やU字型の地形を残す。スプーンで削り取ったような地形をカール(圏谷)と呼びU字型の地形をフィヨルドと呼ぶ。
*釜トンネル:梓川沿いの急峻な岩崖にすべて手彫りで掘削された全長320m、1927(昭和2)年に車道として完成した隧道。その後改良を重ね2005(平成17)年に新たな2車線の車道として開通。上高地の自然保護のためマイカーの乗り入れは禁止されている。
*W.ウェストン:イギリスの宣教師で登山家。1887(明治20)年から数度にわたり来日。北アルプス、南アルプスなど高山を探検登山し、帰国後 1896(明治29)年「日本アルプスの登山と探検」をロンドンで刊行、日本山岳の美を紹介した。
関連リンク 新まつもと物語(松本市)(WEBサイト)
参考文献 新まつもと物語(松本市)(WEBサイト)
上高地(上高地観光旅館組合)(WEBサイト)
「長野県の山」 山と渓谷社
「信州山歩き地図Ⅱ」 信濃毎日新聞社
「甲信越百名山」 山と渓谷社

2022年09月現在

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