勝沼を中心とした甲府盆地のワイナリー群かつぬまをちゅうしんとしたこうふぼんちのわいなりーぐん

山梨県のブドウ栽培の歴史*は古く、8世紀あるいは12世紀ともいわれるが、ワイン醸造は明治時代からはじまり、日本のワイン発祥の地*である。山梨県内には甲府盆地を中心に、現在、明治初期創業の老舗から最近の創業の醸造所まで新旧約80のワイナリーがある。ワイナリーは、小さな家族経営のものから大規模なものまで、同じ県内でも、盆地気候や山岳気候など変化にとんだ自然環境や地質的地形的な特性を生かし、個性豊かなワインづくりを行っている。山梨のブドウ、そしてワインは甲州ブドウ(種)を起源としているが、これは、ブドウ生産の中心地甲州市勝沼地域が江戸時代以前から甲州ブドウ(種)の栽培の最適地とされたことによる。
 白ワインの「甲州ワイン」は、2010(平成22)年にOIV(国際ブドウ・ワイン機構)によって、その原料である甲州ブドウ(種)が、マスカット・ベーリーAとともにワイン原料のブドウ品種として登録され、山梨のワインの味や品質が世界的に高く評価された。
 現在は、さらに、ヨーロッパ系を中心に様々な品種のブドウ*が甲府盆地の各所で栽培され、山梨の自然環境に根付くよう品種改良や栽培方法等の工夫が行われ、それぞれの品種特性がよく顕れた良質なワインづくりがなされている。その結果、2013(平成25)年には山梨県産ワインの品質や評価について、主に山梨県という生産地に由来することが認定され、「山梨」が「ボルドー」「ブルゴーニュ」と同じようにワインにおける「地理的表示」として指定された。
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みどころ

甲府盆地の各地にワイナリーはあるが、とくに、ブドウ畑の多い甲州市、笛吹市、山梨市には60ほどのワイナリーがブドウ畑のなかに点在する。ワイナリーによって醸造場の見学などの対応は異なるが、試飲や直売は行っているところが多い。なかにはレストランを併設しているところもある。ワイナリーを巡って自分の好みのワインを見つけるのが面白い。また、1ヶ所で試飲をしてみたいという向きには、勝沼ぶどう郷駅の西の小高い山の山上にある甲州市営の「ぶどうの丘」に立ち寄ると良い。
 甲府に在住していたこともある太宰治は小説「新樹の言葉」のなかで「押入れから甲州産の白葡萄酒の一升瓶をとり出し、茶呑茶碗で、がぶがぶのんで、酔って来たので蒲団ひいて寝てしまった」と書いており、地元でいかに甲州ワインが親しまれてきたかが分かる。現在、品質は当時に比べ格段に向上しているが、それでもワイナリーによっては一升瓶のワインが販売されており、古くからの生産地らしく、お得感もあり、ワイン好きには楽しみのひとつ。
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補足情報

*ブドウ栽培の歴史:江戸時代以前は、甲州ブドウ(種)のみが作られていた。その甲州ブドウの歴史は1186(文治2)年に甲斐国八代郡祝村(現・甲州市)の雨宮勘解由(かげゆ)によって山中から野生種が見いだされ、栽培が開始されたという話が伝えられているほか、甲州市勝沼の大善寺では行基が薬種としてのブドウの作り方を村人に教えたという伝説もある。ただ、いずれも伝承の域をでない。最近の研究では、ヨーロッパ系のブドウに東アジア系の野生種が交雑して生まれた日本固有の種であるとされ、シルクロード、中国を経て渡来したとものと推定されている。商品化されたのは、街道などが整備された江戸時代以降であり、江戸中期の儒学者、荻生徂徠の「峡中紀行」では勝沼宿付近で「路側葡萄架、采摘殆盡」(街道沿いにはブドウ棚が架り、おおかた摘み採られている)などとも書いている。明治期に入り、ヨーロッパ系の多様な品種も移入され、ブドウ栽培がより一層盛んになり、同時にワイン醸造も始まった。
*日本のワイン発祥の地:1870(明治3)年、甲府で清酒の醸造技術を応用し、甲州ブドウからワインを生産する試みが行われたが、2年で廃業。1877(明治10)年、明治新政府の殖産興業施策のもと、山梨県令藤村紫朗の後押しで勝沼に大日本葡萄酒会社が創設され、日本人技術者がワインづくり研修でフランスへ派遣された。これを機に、現在、老舗となっているワイナリーが続々と設立された。その後、ブドウの病気被害や、品質問題で紆余曲折はあったが、1939(昭和14)年には、県内のワイン醸造場数は3、694か所にまでなった。第2次世界大戦により、一旦の衰微を迎えるが、戦後、ブドウ栽培技術の向上やワイン醸造技術の改良や品質向上に官民あげて取り組んだ。とくに甲州ワインについては、1984(昭和59)年に、それまでのやや甘口のフレッシュ&フルーティなスタイルのワインから、日本料理などにも合う辛口で複雑味、旨味を引き出すシュール・リー製法を用いたワインづくりに転換、徐々に世界でも通用するワインに育っていった。
*様々な品種のブドウ:甲州をはじめ、小つぶのデラウェア、黄緑色のネオマスカット、巨峰、ピオーネ、ベリーA甲斐路、赤嶺などに加え、ワイン醸造用として甲州、マスカット・ベーリーA、ブラック・クイーン、ベーリー・アリカントA、デラウェア、交配品種(甲斐ノワール、甲斐ブラン、サンセミヨン、アルモノワール、ビジュノワール、モンドブリエ)、ヴィニフェラ種(シャルドネ、セミヨン、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ブラン、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、カベルネ・フラン、ピノ・ノワールなど)が栽培されている。

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