甲府盆地のブドウ畑こうふぼんちのぶどうばたけ

甲府盆地は内陸性気候で、降水量が少なく、日照時間も長く、昼夜、季節の寒暖差が大きいという気象条件と、扇状地などの傾斜地が多く、標高差があるという地形的な条件から果実栽培に適している。このため古くから甲斐八珍果*といわれる、ブドウ・桃・ナシなど多種多様な果実が作られていた。なかでもブドウ栽培が日本一の生産高を誇るほど盛んで、盆地の東部の北半分の地域にある斜面、緩斜面を利用してブドウ畑が広がる。日本固有のぶどう品種である「甲州ブドウ*」をはじめ、小つぶの「デラウェア」、黄緑色の「ネオマスカット」、「巨峰」、「ピオーネ」、「ベリーA甲斐路」、「赤嶺」など多種のブドウが栽培されている。
 8~11月の収穫期には勝沼、石和、甲府などの観光農園でブドウ狩りが楽しめる。また、勝沼ぶどう郷駅の西にある、ブドウ畑におおわれた小高い山の上には、ブドウに関する土産品やワインの販売、レストラン・宿泊施設が整った「ぶどうの丘*」がある。
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みどころ

春から秋にかけ、ブドウの葉の色合いが様々に変化し、盆地の傾斜面にある葡萄棚は、ちょうどラグマットを組み合わせ、敷き詰めたような景観となり、見飽きない。とくに、JR中央本線がトンネルの多い山間部を抜け、盆地を見渡すことができる勝沼ぶどう郷駅付近からの景観は、盆地を囲む山々とブドウ畑の広がりが素晴らしい。このほか、「ぶどうの丘」、「笛吹川フルーツ公園」などからも同様の景観を楽しむことができる。
 山梨県出身の林真理子は小説「葡萄が目にしみる」のなかで、ブドウ畑の景観を「まわりの低い山々は、一平方メートルの無駄もなく、すべて葡萄畑になっていた。それゆえに山の線はやわらかい」と表現し、「白い道をみわたすように、盆地の山々が見える。桃畑と葡萄畑 がモザイクのように入り組んだ地域を抜け、葡萄畑だけ続くところに入る」と果樹栽培の盛んな地域の様子を描写している。
 ブドウ畑の多い甲州市、笛吹市、山梨市では60ほどのワインワイナリー(山梨県全体では約80ヶ所)が畑のなかに点在し、ブドウ棚を眺めながらのワイナリー巡りも楽しい。白ワインの「甲州ワイン」は、2010(平成22)年にOIV(国際ブドウ・ワイン機構)によって、その原料である甲州ブドウ(種)が、マスカット・ベーリーAとともにワイン原料のブドウ品種として登録され、山梨のワインの味や品質が世界的に高く評価された。ぜひ、賞味されることをお勧めしたい。
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補足情報

*甲州八珍菓:ブドウ・ナシ・モモ・カキ・クリ・リンゴ・ザクロ・クルミ(あるいはギンナン)。いつ頃から八珍果として称されたかは定かではないが、例えば、江戸中期の儒学者、荻生徂徠の「峡中紀行」では勝沼宿付近で「路側葡萄架、采摘殆盡」(街道沿いにはブドウ棚が架り、おおかた摘み採られている)などとも書かれており、江戸時代後期編纂の「甲斐国志」でもこれらの果物名が甲州の特産品として挙げられている。
*甲州ブドウ:甲州ブドウの歴史は1186(文治2)年に甲斐国八代郡祝村(現・甲州市)の雨宮勘解由によって山中から野生種が見いだされ、栽培が開始されたという話が伝えられているほか、甲州市勝沼の大善寺では行基が薬種としてのブドウの作り方を村人に教えたという伝説もある。ただ、いずれも伝承の域をでない。最近の研究では、ヨーロッパ系のブドウに東アジア系の野生種が交雑して生まれた日本固有の種であるとされ、シルクロード、中国を経て渡来したとものと推定されている。ブドウが商品となって流通しはじめたのは江戸時代になってからといわれ、明治時代になってヨーロッパ系のブドウも移入され、より一層、この地でのブドウ栽培が盛んになった。
*「ぶどうの丘」:甲州市営の施設。地下カーヴでワインの試飲が楽しめるほか、各ワイナリーの直売コーナー、ワインに合う料理を提供しているワインレストランやブドウ畑越しに、南アルプス、甲府盆地を眺望する展望台もある。
関連リンク やまなし観光推進機構「甲州ぶどうとは」(WEBサイト)
関連図書 林真理子「葡萄が目にしみる」角川書店,「甲斐国志」国立国会図書館デジタルコンテンツ
参考文献 やまなし観光推進機構「甲州ぶどうとは」(WEBサイト)
甲州市勝沼 ぶどうの丘HP(WEBサイト)
荻生徂徠「峡中紀行」国立国会図書館デジタルコンテンツ(WEBサイト)

2024年07月現在

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