那珂川なかがわ

那須火山の那須岳(標高1,917m)に源を発し、栃木・茨城両県を流れ、ひたちなか市と大洗町の間で太平洋に注ぐ。余笹川、箒川、桜川や河口近くで最後に合流する涸沼川なども含め、196の支流を有する。全長は150km、流域面積は3,270km2
 支流を含め那珂川は、古代から鉄道開通する近代まで舟運が盛んだった。そのため、古くから親しまれており、常陸国風土記では、「粟河」*とも称され、万葉集*にも歌われている。河口付近はかつては、現在の涸沼まで含む広大な湖で阿多可奈湖(あたかなのみなと)と呼ばれ、那賀(那珂)郡と香島(鹿島)郡の境となっていた。
 上流部には、深山ダムがあり、その上が源流にあたる。ダムから下流では那須高原に渓谷を形作り、板室温泉を通って、那須野原に流れ出す。このあたりでは、ヤマメ、イワナの放流がされており、フライ、ルアーなどの渓流釣りが楽しめる。那須野原に出ると、アカマツやクヌギなどが豊かな雑木林を見せ、野生動植物の宝庫となっている。那須野原の開拓にはあたっては、那珂川から引かれた「那須野ヶ原用水」*が重要な役割を果たした。
 中流部では、八溝山地の西側を流れ、御前山付近からは、両岸は河岸段丘が発達し、地かく変動と河川の浸蝕による奇岩・奇石が見られる。さらに、御前山は、水戸藩の留山*として保全されていたため、ケヤキ、アカマツ、カシなどが豊かな森林を形成し、温・暖両帯の植物が混成していることから新緑、紅葉に見ごたえがあり、那珂川の清流とともに風光明媚な景観を呈している。また、水質が良く、砂州の入れ替わりによって瀬が良好な状態に維持されていることから、春から夏にかけてはアユが遡上し、アユ釣りのメッカとなっている。流域の随所に釣り場や簗場がある。
 下流部では、水戸市付近を中心に肥沃な沖積平野を形成し、田園地帯が広がり、偕楽園の前に広がる千波湖*などの景観を生み出した。河口から20㎞付近までは、ヒラメ、クロダイ、ハゼ、キス、イナダなど汽水性、淡水性の魚類が豊富で、多様な釣りの楽しみ方ができる。河口付近では砂浜海岸や水辺プラザ、水族館など観光施設も多い。
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みどころ

上流の一部を除くと、全体的にゆったりとした流れで、中山間部、平野部でそれぞれ豊かな表情の田園風景を見せてくれる。
 最上流の深山ダムを除くと、流域にはダム、堤防、護岸工事等の人工物が少なく、上流からか下流まで水質がよく、まさに清流と呼ぶにふさわしい川であり、周囲の自然環境とも溶け合っている。
 上流、中流、下流、それぞれに多様な釣りが楽しめる。特に、アユ釣りは、関東におけるメッカ。鮭の遡上する川としても有名。(志賀 典人)
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補足情報

*「粟河」:常陸国風土記には「自郡東北挾粟河 而置驛家 當其以南 泉出坂中 水多流尤淸 謂之曝井」(郡より東北に粟河を挟んで駅家を置かれている。その南の坂の途中に泉が出て、流水が多く、清らか。さらしの井という)という記載がある。粟河の名は那賀郡阿波郷に沿って流れていることによるといわれるが、「アワ」の意味は、粟の栽培に適した地を流れていることに由来するとも、那珂川の侵食によって「崖地、崩れ地」だったことから由来するとも、諸説がある。また、那珂川の名称については室町時代の「神明境」では、1408(応永15)年に那須岳が噴火した際、「硫黄空降常州那珂河硫黄」と記されており、この時期には、すでにこの名で呼ばれていたと思われる。「ナカ」の由来についても、かつて那賀国造一族の本拠地であったこととか、常陸国のまん中に位置したからなど、数多くの説がある。
*万葉集:「みつぐりの那賀に向へる曝し井の、絶えず通はむ。そこに妻もが」(那賀の郡の郡家の眞向うに見えてゐる、布を曝す曝井 の邊に、思ふ人が居つたならば、其川水の絶えない樣に、始終通はうものを)。なお、常陸国風土記でも前出の「曝井」の記述の続きで、「付近の婦人たちが布を曝し乾かしている」と、万葉集と同様の光景を記述している。
*那須野ヶ原用水:那須野原は扇状地であるため礫層が厚く、河川が伏流し水無川となることが多い。そのため、水の便が悪く、那須野原の開拓には用水の整備が必須であった。まず、明治期に開削事業が行われ、その後、昭和、平成に入っても用水確保の事業は続けられた。
*留山:「江戸時代に山林資源保護のため、一般の用益を禁止する禁伐林のこと」(角川書店・日本史辞典)
*千波湖:那珂川の氾濫などによって生じた浅い沼で、江戸時代初期、水戸藩の城下町建設にあたり、水戸城の堀として囲い込んで形成された湖。
関連リンク 国土交通省関東地方整備局常陸河川国道事務所(WEBサイト)
関連図書 デジタルコンテンツ『常陸国風土記』国立国会図書館、折口信夫著『万葉集』Kindle版、デジタルコンテンツ『神明鏡2巻下』国立国会図書館
参考文献 国土交通省関東地方整備局常陸河川国道事務所(WEBサイト)
茨城県(WEBサイト)
環境省(WEBサイト)
ガイドブック「偕楽園公園ガイド」(水戸市)(WEBサイト)
朝尾直弘、宇野俊一、 田中琢編『角川日本史辞典』角川書店、2004年6月

2020年12月現在

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