国指定史跡 松ヶ岡開墾場くにしていしせき まつがおかかいこんじょう

JR羽越本線鶴岡駅から南東約8kmにある。譜代大名・酒井氏を藩主とする庄内藩は、江戸時代末期、江戸市中取締まり役を担い治安を守っていた。1867(慶應3)年、幕命により江戸の薩摩藩焼き討ちを決行したことをきっかけに、翌年、鳥羽・伏見の戦いが起こり、戊辰戦争が始まる。庄内藩は会津藩らとともに新政府軍と戦ったが、会津藩が破れ、最後の一藩となった庄内藩は一度も負けずして、やむを得ず降伏した。しかし、庄内藩は西郷隆盛の指示による寛大な処置を受け、それをきっかけに西郷隆盛と庄内藩との交流が始まる。
 明治維新による廃藩置県、身分制度廃止などが行われ、旧庄内藩士の生活は困窮し、「サムライ」の誇り、自覚、忠誠心などが失われつつあった難局に、旧庄内藩中老の菅実秀*は旧藩士による開墾と絹産業を盛んにすることで、国の産業を興し、賊軍の汚名をそそごうと西郷隆盛に相談。西郷もこれを大いに賛成し、1872(明治5)年に旧庄内藩士たちによる後田山(松ヶ岡)の開墾が始まる。松ヶ岡には1874(明治7)年に311haに及ぶ桑園が、1877(明治10)年に合計10棟の国内最大の建築構造・規模を誇る上州方式の木造3階建ての蚕室群が姿を現し、養蚕業が本格化する。そして、蚕種(蚕の卵)、真綿の製造が始まり、また、市内では大規模な製糸工場の建設、羽二重・繻子などの製織技術や絹布への精練・染色技術の積極的な導入が図られ、鶴岡には絹織物の生産工程・技術が一通り揃い、絹産業が飛躍的に発展することになる。
 絹産業は、鉄工業などの周辺産業・人材育成・金融業などにも影響を与えながら、鶴岡・庄内の近代化をけん引し、今日まで、養蚕から絹織物までの一連の生産工程・技術が揃う貴重な産業クラスターとして、また、高級絹織物の産地として高く評価されている。この松ヶ岡開墾を発祥とする「鶴岡のシルク」の歴史・文化的価値は、松ヶ岡開墾場の国史跡指定に始まり、近代化産業遺産群、歴まち法に基づく重点地区、日本遺産「サムライゆかりのシルク」の認定*にもつながっている。
 国指定史跡松ヶ岡開墾場の駐車場に隣接する、市指定文化財の新徴屋敷(日本遺産インフォメーションセンター)では、日本遺産と松ヶ岡開墾場の概要を知ることができる。駐車場から先は松ヶ岡本陣に向けて樹齢100年の桜並木の散策路が続き、その両側に、明治初期の面影を残す上州方式の木造3階建ての現存する5棟の蚕室が両脇に建ち並ぶ。
 駐車場から右手に見える5番蚕室、左手に見える4番蚕室は、それぞれ2019~2022(令和元~4)年にかけて蚕室構造展示施設、鶴岡のシルクの展示施設としてリニューアル中。4・5番蚕室を過ぎ散策路を歩くと、右手には手前から奥へと、寄宿舎(旧酒井家蚕室)、3番蚕室、1番蚕室が並んでいる。寄宿舎では、繭クラフトなどの体験・販売施設「くらふと松ヶ岡こうでらいね」*が、3番蚕室では、6月と9月に国内でも貴重な蚕室を利用した蚕飼育展示を行う「おカイコさまの蔵」が、1番蚕室では、2019(平成31)年4月にリニューアルした開墾と絹産業の歴史を伝える「松ヶ岡開墾記念館」*がある。左手には手前から奥へと、貯桑土蔵、2番蚕室が並んでいる。貯桑土蔵では、陶芸やそば打ちなどもできる体験施設「松岡窯陶芸教室」が、2番蚕室には軽食やお土産品を提供する「一翠苑」と、海外でも高い評価を受けているブランド「kibiso」をはじめとする鶴岡のシルク製品の展示・販売施設「kibiso・ショップ」がある。その先、車道を越えると、旧藩主が参勤交代の際に休憩所として用いた御茶屋を移築した「本陣」*がある。
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みどころ

旧庄内藩の「サムライ」たちは、「シルク」を基軸に最先端技術の導入による産業振興、人材育成などを進め地域再生にかけた。その出発点がこの「松ヶ岡開墾場」である。開墾場では、明治初期の趣を残す建造物と景観とともに、開墾から今に続く歴史文化と、鶴岡のシルクの未来の一端を体感することができる。
 また、「むかしむかしの新しさ」をテーマに、開墾・シルク・食など多様な地域資源を活用した学習・体験プログラムの開発が行われ、周辺では民間のワイナリーがオープンするなど、その魅力の充実が進んでいる。(志賀 典人)
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補足情報

*菅実秀:1830~1903年。庄内藩中老として戊辰戦争、明治維新を迎えた。賊軍として戊辰戦争を戦うことを余儀なくされた庄内藩としては、当主であった酒井忠篤と菅実秀らが地域の再建と発展に貢献することで「国辱を濯がん」とした。菅実秀は「国辱を濯ぐとは、人々志を立て、道を学び、皇国のために命を擲ち、あっぱれ武士の手本、天下の模範となれば、これこそ辱をそそげりというものなれ」と述べたという。
*日本遺産「サムライゆかりのシルク」:https://samurai-yukarino-silk.jp/(鶴岡「サムライゆかりのシルク」推進協議会)
*くらふと松ヶ岡こうでらいね:地元作家を中心としたクラフト作品の販売と体験ギャラリー。まゆクラフト、つまみ細工などの手作り体験が楽しめる。
*松岡窯陶芸教室陶の蔵:松ヶ岡焼の販売と絵付けや陶芸体験。そば・うどん打ち、米粉ピザ作りなどの体験もできる。
*松ヶ岡開墾記念館:松ヶ岡の開墾、養蚕、絹産業関係資料を展示。2019年のリニューアルで、映像展示や音声ガイドを導入。
*本陣:松ヶ岡開墾場の管理事務所として使用された。

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