肘折温泉ひじおりおんせん

JR山形新幹線の終着駅である新庄駅から南西へ約28km、カルデラ地形*の底を流れる銅山川のほとりに肘折温泉がある。そこから約1km離れた西の黄金(こがね)温泉、南の石抱(いしだき)温泉*と合わせ、肘折温泉郷と総称している。
 肘折温泉の開湯には諸説があり、もっとも古い説では807(大同2)年ともいわれるが、1390(明徳元)年に月山への登拝道「膝折口」がきり開かれた折には、すでに温泉場として開かれていたという古文書が残っている。その後出羽三山*への参拝のための宿泊客や周辺の村々からの湯治客で長い間多くの人々で賑わってきた。また、近くには永松鉱山、大蔵鉱山*が1960(昭和35)年頃まであり、その鉱山関係者も数多く訪れていた。
 肘折温泉には現在、共同源泉が6か所、個人源泉が10か所あり、19軒の旅館*が軒を並べる。各旅館には内湯も用意されているが、温泉街の中心にある外湯の「共同浴場上の湯」も利用することができる。また、かつては自炊客が多かったことから朝市が発達したが、現在でも観光客向けと旅館食材調達用のために午前6時から開催している。付近には開湯伝説に関連する老僧が住んでいたという地蔵倉や山形県出身で肘折温泉を愛した斎藤茂吉歌碑がある。また、現在も月山・葉山の登山口ともなっている。
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みどころ

昔ながらののんびりとした湯治場の雰囲気を色濃く残している。
 外湯、朝市、お土産屋と温泉街を浴衣でそぞろ歩きできる要素も多い。肘折温泉から1.5km離れた黄金温泉のカルデラ温泉館などでは露天風呂に入ることもできる。
 地蔵倉や鉱山跡をめぐる遊歩道もありハイキングも楽しめるとともに、直径2kmという小カルデラを実感でき、地質学的、地形学的な興味をかき立てる。
 現在は宿泊施設の設備的制約でインバウンドは少ないものの、今後、インバウンドの増加も見込まれ、現在の雰囲気を残しつつバランスよく取り込んでいけるかが、課題となろう。(志賀 典人)
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補足情報

*カルデラ地形:肘折カルデラと呼ばれ、約1万年前の火山活動によりできた直径2kmの陥没地形。銅山川がカルデラの外輪山の一部を削り、渓谷となした。この地形は肘折希望大橋の展望スポットから眺望することができる。
*肘折温泉、石抱温泉:黄金温泉には現在、日帰り温泉施設、カルデラ温泉館と肘折いでゆ館があり、石抱温泉には野天風呂(入浴は肘折ゑびす屋旅館に事前予約)がある。
*出羽三山:現在は、月山、湯殿山、羽黒山を三山とするが、かつては葉山が三山の一つとされ、湯殿山が三山の奥の院とされていた。その後、葉山権現信仰が衰退したため、現在の形になった。肘折温泉は月山だけでなく、葉山への登拝口にもなっている。
*永松鉱山、大蔵鉱山:永松鉱山は約400年前に発見された銅山、1961(昭和36)年に閉山。大蔵鉱山は、明和(1764~1780年)年間に発見され、明治の終わりからは銅、亜鉛、金などを盛んに産出した。1959(昭和34)年閉山。黄金温泉は鉱山が発見されたのと同時に開湯した。
*旅館:かつて、早朝、同時に出発する月山、葉山の講中の一行が多かったことから出入り口代わりの縁側があるという独特の構造になっていた。現在も改装はしているものの、その雰囲気を残している旅館が多い。

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