早池峰山はやちねさん

早池峰山は標高1,917mの山で、山頂は花巻市、宮古市、遠野市の3つの市の境界となっている。北上山地の最高峰で、東に剣ヶ峰、西に中岳・鶏頭山・毛無森へと1,500m前後の山稜が続き、全長は東西16kmにわたっている。
 北上山地は、早池峰山を境に北部と南部に分かれ、その成り立ちは異なる。北部北上山地は、古生代石炭紀と中生代ジュラ紀の深い海に堆積した地層が複雑に重なり合っており、南部北上山地は古生代オルドビス紀(約4億8540万年~約4億4380万年前)からペルム紀(約2億9890万年~2億5190万年前)までの深い海と中生代白亜紀(約1億4,500万年~6,600万年前)の浅い海の地層が堆積している。早池峰山は、南部北上山地の一部の古い岩体から構成されており、4億年以上も前の古生代オルドビス紀に海の中で形成され、中生代後期に海から上昇して地表に現れたと考えられている。
 早池峰山には、「かんらん岩」やかんらん岩が変質してできた「蛇紋岩」という特殊な岩石*が分布している。マグネシウムや重金属を多く含むかんらん岩や蛇紋岩は植物の生育を妨げ、また風化しても土壌となりにくいため、植物の栄養となるリンや窒素も乏しい状態にある。加えて、雪の少ない早池峰山では、冬には土壌の水分が凍結するなどの厳しい気候条件もあって、一般的な植物が生育することが難しい。その結果、厳しい環境下でしか成育できないハヤチネウスユキソウなどの固有種をとどめ、140種の希少な高山植物が生育している。
 山頂一帯は巨岩が露出しているが、頂上から6合目にかけて高山植物のお花畑が多く、植物分布学上の宝庫といわれ学術的にも貴重な山である。ハヤチネウスユキソウなどの高山植物などが生育する植物群落とその南側の薬師岳の森林植物群落は「早池峰山および薬師岳の高山帯・森林植物群落」として国の特別天然記念物に指定されている。またアカエゾマツも「早池峰山のアカエゾマツ自生南限地」として、国の天然記念物に指定されている。
 山頂からは岩手山・姫神山をはじめ、はるかに岩木山・鳥海山などが望まれる。また、太平洋や陸中海岸の海岸線も展望できる。登山シーズンは春から秋だが、高山植物に彩られる夏に訪れるのがもっともよい。登山コースには、河原の坊コース*、小田越コース、鶏頭山コース、三山縦走(早池峰山・中岳・鶏頭山)コースがある。
#

みどころ

10,000m以深でできた蛇紋岩が上昇し、標高約2,000mの山を形成するという、ダイナミックな地殻変動に驚かされる。
 早池峰山の眺めについて、深田久弥は『日本百名山』の中で、「私が一番ハッキリと早池峰の全容を眺めたのは姫神山の頂上からであった。それは北上高地の山波の上に一きわ高く立っていた。先鋭な独立峰の形ではなく、長い頂稜を持つ条項名山の姿で立っていた。」と書いている。
 蛇紋岩の岩礫にハイマツの混じる高山植物地帯は特筆すべき美しさである。東北の他の山と異なり、森林限界を超えた上部は急峻な岩場状になっているのが特徴。特に6月中旬から8月上旬の花の時期は岩場の随所に多くの花を見ることができ、急な登りなので苦労するが、花を愛でながら楽しめる。ハヤチネウスユキソウ、ヒメコザクラ、ナンブイヌナズナ、ナンブトラノオなど、高山植物が好きな登山者にとって憧れの山である。
 小田越コースは上部にハシゴ場があり、標高以上のアドベンチャー感がある。360度遮るものがない展望は、五葉山、八幡平から岩手山、焼石連峰へ続く奥羽山脈の山々を眺められる。
#

補足情報

*「かんらん岩」やかんらん岩が変質してできた「蛇紋岩」という特殊な岩石:オルドビス紀の岩石は日本列島において最も古い部類に入る希少なもの。蛇紋岩は地殻よりも下の上部マントルを構成しているかんらん岩と海洋プレートの沈み込みによってもたらされた水が反応してできた岩石。蛇紋岩は周囲の岩石に比べ侵食に対する抵抗力が大きいため、主に中岳蛇紋岩からなる早池峰連山は地形的に突出した残丘となっている。
*河原の坊コース:2016(平成28)年5月26日(木)の大雨で登山道の一部(千丈ヶ岩~打石付近)が崩落したため全区間通行止め(2023(令和5)年4月現在、継続中)。
*自然保護の観点から、山頂の避難小屋は休息のみ利用可能。原則として緊急時以外の宿泊は禁止。
*6月上旬から8月上旬の土日祝は、岳から先は一般車両の乗り入れが禁止になり、シャトルバス(有料)が運行。
*早池峰山では携帯トイレのみ使用可。