お山参詣おやまさんけい

稲が実る旧暦8月1日、五穀豊穣の感謝と祈願をこめ、岩木山の山頂にある岩木山神社奥宮に集団で登山する行事。岩木山は津軽平野の南西方にあり鳥海火山帯に属する二重式火山。津軽富士と呼ばれる円錐形の独立峰、標高1,625mの青森県最高峰である。津軽平野の各地から美しい姿を望むことができるため、津軽地方の人々にとってかけがえのないシンボルであり、古くから「お山」、「お岩木さま」と慣れ親しまれてきた。津軽の各集落から思い思いの装束で、登山囃子に合わせて神社に集まり、夜半に登山して御来光を仰ぐ。古くから行われており、岩木山信仰を今に伝える行事である。
 この行事がいつ頃から始まったかは定かではないが、岩木山神社は、今から約1250年前、岩木山の山頂に社殿を創建したのが起源とされ、その頃からなんらかの形で、集団で登山する信仰行事が行われていたと考えられる。時代を経るに従い、団体の構成や日時、服装、囃子などが形式化、整備され、幾多の変遷を経て、現在に至っている。
#

みどころ

お山参詣は、岩木山神社(いわきやまじんじゃ)の例祭であり、津軽地方最大の秋祭りで、岩木山に登る登拝行事として国の重要無形民俗文化財として登録されている。行事は旧暦8月1日にかけての3日間で行われるが、その1週間ほど前から各村で近くの川や水で体を清め精進潔斎をする。
 初日の向山(むかいやま)は徒歩で参拝していた時代、各村を出発する日で、現在は初日から露店も立ち並び様々な催しが行われ、多くの参拝者でにぎわう。
 二日目の宵山(よいやま)では白装束に身を包んだ大勢の参拝者が団体でふもとの岩木山神社を目指し、神前でお祓えを受け、登拝安全の祈願をする。登山囃子が響く中、「サイギ、サイギ*」の掛け声を唱え、黄金色の御幣や色あざやかな幟(のぼり)を掲げ練り歩く。長さ10mを超えるものもある幟を数人が脇で支え綱を持ち、力自慢の若者が掲げ歩んでくる様は、それは豪勢で周辺で見守る人々の拍手喝采を受ける。
 三日目の朔日山(ついたちやま)、参拝者は岩木山の山頂を目指して未明に出発する。松明や懐中電灯などの明かりを頼りに岩場を登る。この松明などの明りが転々として山を登っていくのが麓からも見えるという。登拝者はまだ暗いうちに山頂に着きご来光を待つ。八甲田山から日が昇り、お囃子にあわせ登拝者はご来光に向かって柏手を打ち拝礼するとともに歓声が上がる。この祭りの最大のクライマックスである。参詣を済ませて麓までもどると大酒盛りになり、「いい山かけた、ついたちかけた………バダラ*、バダラ、バダラヨー」と歌い踊りながらそれぞれの村まで帰り、精進落としの脛布(はぎ)抜きと称して祝いの飲食をする。
 地元の人たちの岩木山をあがめる姿とお山参詣の歴史に感激を覚え、こうした行事によってそれぞれの村がまとまり人々が結びついていくのがわかるだろう。
#

補足情報

*サイギ、サイギ:懺悔懺悔。過去の罪過を悔い改め神仏に告げこれを謝す言葉。これに続けて、六根懺悔(ドッコイサイギ)、御山八大(オヤマサハチダイ)、金剛道者(コンゴウドウシャ)、一々礼拝(イーツニナノハイ)、南無帰命頂礼(ナムキンミョウチョウライ)と唱える。
*バダラ、バダラ:萬足、萬足。登拝を無事すませたという喜びと、お山がそれぞれの願い事を聞き入れ登拝した方々に神通力が宿ったということを表現したもの。
関連リンク 岩木山神社(WEBサイト)
関連図書 『日本百名山』深田久弥 新潮文庫
参考文献 岩木登山ばやし保存会(WEBサイト)
『お山参詣・宵山「サイギサイギ」響く』(YouTube)(東奥日報)
『青森県の歴史散歩』 青森県高等学校地方史研究会(編) 山川出版社

2023年11月現在

※交通アクセスや料金等に関する情報は、関連リンクをご覧ください。

あわせて行きたい