弘前城ひろさきじょう

弘前城は弘前市の中心部にあり、本丸・北の郭・二の丸・三の丸・四の丸・西の郭の6つの郭*で構成された平山城である。規模は 東西約500m、南北約1,000m、総面積約50万㎡に及ぶ。濠は三方・三重に巡らされ、西側は蓮池と元は岩木川の流路であった西濠に守られている。
 弘前藩代々の居城で、1611(慶長16)年に2代藩主津軽信枚(のぶひら)によって完成し、廃藩に到るまでの260年間弘前藩政の中心地として使用されてきた。現在、津軽氏城跡(種里城跡・堀越城跡・弘前城跡)として史跡に指定され、天守*のほか辰巳櫓(たつみやぐら)・未申櫓(ひつじさるやぐら)・丑寅櫓(うしとらやぐら)の二の丸隅櫓(にのまるすみやぐら)3棟と、追手門(おうてもん)・亀甲門(かめのこうもん)などを含む5つの城門が残っており、これら9棟は国の重要文化財に指定されている。
 1895(明治28)年に城跡を弘前公園として開放し、サクラの名所として有名(別掲弘前城のサクラ)。モミジも多く紅葉時もみごとである。園内には弘前城植物園・護国神社・市立博物館・市民会館などの施設があり、二の丸には史跡のガイダンス施設、弘前城情報館もある。
 2023年現在、本丸東面石垣の修理工事を行っており、天守も本来の位置から70mほど西側に移動*している。1983(昭和58)年5月の日本海中部地震を契機として石垣を調査した結果、変位が進行すると地震等の衝撃により、石垣が崩壊する危険性があるとの報告があったため石垣修理工事に着手。2014(平成26)年から始まり、2026年に天守を元の石垣上に曳き戻して完成予定という。
#

みどころ

弘前城は江戸時代初期の築城時の全形をほぼ残しており、全国的に珍しく貴重な遺構といえる。天守はそれほど大きくはないが、松本城以北では唯一の現存する天守である。
 太宰治*は小説「津軽」の中で弘前城の津軽人にとっての重要性について熱を込めて書いている。「ひとりで弘前城を訪れ、お城の広場の一隅に立って、岩木山を眺望したとき、ふと脚下に、夢の町がひっそりと展開してゐるのに気がつき、ぞっとした事がある。私はそれまで、この弘前城を、弘前のまちのはづれに孤立してゐるものだとばかり思ってゐたのだ。けれども、見よ、お城のすぐ下に、私のいままで見た事もない古雅な町が、何百年も昔のままの姿で小さい軒を並べ、息をひそめてひっそりうずくまってゐたのだ。ああ、こんなところにも町があった。年少の私は夢を見るやうな気持で思はず深い溜息をもらしたのである。………弘前城はこの隠沼を持ってゐるから稀代の名城なのだ、といまになっては私も強引に押切るより他はない。」
 天守の正面と背面ではデザインが大きく異なり、正面(本丸側)は地味でシンプルなものとなっている。一方で天守の背面(二の丸側)は矢狭間*が多く、1・2階に切妻屋根の張出を持ち、装飾的である。規模は小さくとも重量感がある。
 城の周りの水濠には下乗橋(げじょうばし)をはじめ八つの木橋が架かり、濠の水や周辺の木々と調和し四季折々の表情を見せる。水濠のうち西濠の両岸には約300本のサクラが植えられており、サクラのトンネルとなって美しい散歩道になっている。
 本丸から見る岩木山は周りに障害物も少なく、裾野まで綺麗に撮れる岩木山撮影のベストスポットになっている。ただし石垣修理のため天守が西側に移動している現在は、天守の東側に展望デッキが設けられており、このデッキから岩木山を借景にした天守を撮影することができる。天守が曳き戻されるまでの期間限定の特別席である。その他弘前公園内の写真撮影スポットについては、「弘前公園」のホームページで確認することができる。
#

補足情報

*郭:くるわ  城や砦(とりで)の周囲に巡らされた土や石の囲い。また、その内側の地域。曲輪とも表記。
*天守:3層3階で銅瓦葺。築城時の天守は5層だったが、1627(寛永4)年に落雷で焼失してしまい、現在の天守は1810(文化7)年に本丸の辰巳櫓を4,000両の工費を見込み再建したものである。矢狭間が多く、1・2階に切妻屋根の張出をもつ。小規模だが重量感がある。内部を一般に開放している。
*天守の移動:建物を解体しないでそのまま移動させる「曳家(ひきや)」という方法を用いた。天守の重さ約400t、3か月かけて移動。
*太宰治:1909~1948年 作家。本名津島修治。明治42年大地主の六男として誕生。東京帝国大仏文科卒業後、本格的な作家活動に入り、1933~1945(昭和8~20)年にかけて、次々と佳作を発表した。その文章の底流には鋭敏な感受性がもたらす人間的葛藤と、故郷津軽の風土に根ざすほの暗い頽廃的なものを秘めている。1948(昭和23)年、玉川上水で自殺。代表作に「斜陽」「富嶽百景」「走れメロス」「津軽」など。
*矢狭間 :城の塀や櫓・軍船の胴壁などに設けられた、矢や鉄砲で攻撃するための穴。

あわせて行きたい