アイヌ古式舞踊(阿寒湖アイヌシアターイコㇿ)あいぬこしきぶよう(あかんこあいぬしあたーいころ)

北海道一円に居住しているアイヌの人々*1によって伝承されている歌舞。アイヌ独自の信仰に根ざし、信仰と芸能と生活が密接不離に結びついているところに特色がある。
 熊送り・梟祭り・菱の実(ベカンベ)祭り・柳葉魚(シシャモ)祭りなどのアイヌの主要な祭りに踊られる儀式舞踊のほか、家庭における各種行事の祝宴、作業歌舞、娯楽舞踊、模擬舞踊、即興性のある舞踊など、多種多様な歌舞*2が伝承されてきた。いずれも歌(ウポポ)を中心とし、踊りは輪舞(リムセ)を基本として構成されているが、道内各地のコタンによっても伝承曲目が異なることもあり、踊りでも、節や振り付けにもそれぞれの特色があることも多い。また、この舞踊に使用される独自の楽器(ムックリやトンコリ)なども継承されている。
 阿寒湖温泉には、アイヌコタンの西隣に常設の劇場「阿寒湖アイヌシアターイコㇿ」*3があり、かつてアイヌがカムイ(神々)からつくり方を教わった祭具「イナウ」*⁴をモチーフにした古式舞踊を中心に公演を行っている。
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みどころ

「阿寒湖アイヌシアターイコㇿ」で古式舞踊では年間を通じ公演されているが、シーズンにより休演あるいは、公演回数が違うので、事前の確認が必要である。公演時間は約30分。また、北海道内の各地においてもアイヌ古式舞踊の保存団体が随時公演を行っている。
 「阿寒湖アイヌシアターイコㇿ」の舞台はかがり火の炎が燃えさかり、ステージ後方は屋外へとつながっており、舞台に深い奥行きを与えるオープンな構造で、アイヌ古式舞踊など迫力満点の公演を観ることができる。ここでは、アイヌの人々の紡いできた独自の伝統文化に触れることができる。とくに高音の独特な唄と掛け声に合わせ、膝と手拍子でリズムを取りながら踊るアイヌ古式舞踊は、自然を尊び、共存してきたアイヌの人々の喜びや哀しみ、自然、動植物との交流が歌舞のなかに表現されており、祖先やカムイ(神々)に対し敬意や感謝に溢れていることがわかる。
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補足情報

*1 アイヌの人々:北海道の先住民族で、アイヌとは人間を意味する。アイヌの人々は自然との共生のなかで歴史を積み重ねきたため、自然界に対する深い畏敬の念へとカムイ(神々)への崇敬が篤く、山、谷、海、火、風、動物、植物、生活道具などすべてのものはアイヌモシリ(人間の静かなる大地)を訪れたカムイが姿を変えたものだと信じてきた。こうした、信仰、思想に基づき、その歴史や伝説や人生訓を含んだ口承叙事詩、音楽、歌、踊りなどを通じ、独自の伝統文化を構築してきた。
*2 多種多様な歌舞:祭祀の際の儀礼舞踊をはじめ、「杵搗き歌」や「ざるこし歌」など祭りのための酒を醸す時に歌い踊る作業歌舞、「剣の舞」「弓の舞」など祭祀性が強い踊り、「鶴の舞」「バッタの舞」「狐の舞」のような模擬舞踊、「棒踊り」「盆とり踊り」「馬追い踊り」などの娯楽舞踊などがある。
*3 「阿寒湖アイヌシアターイコㇿ」:「イコㇿ」では、アイヌ古式舞踊以外にも「満月のリムセ」「ロストカムイ」などの公演も行われている。公演スケジュールは事前に確認し、公演時間に合わせ訪れると良い。公演は有料。 
*4 「イナウ」:一本の木の棒から削り出している御幣のような祭具。「イナウ」そのものがカムイ(神々)であり、カムイがこの地に出現する時の供物でもあり、カムイの世界に送る土産でもある。アイヌの人々の意志をカムイに伝えるための仲介役として、歌、踊り、祈りとともに、「イナウ」は重要な役割を有している。阿寒湖のアイヌの人々が、とりわけ重視しているカムイは火、水、土、風、太陽で、「阿寒湖アイヌシアターイコㇿ」の公演では、この5つのカムイと「イナウ」を中心とした歌舞、祈りが披露される。