竹田の井路群たけたのいろぐん

竹田市周辺には、「井路」と呼ばれる農業水利施設が多く残っている。井路とは水路、灌漑用水路のこと。
 「音無井路円形分水」は、竹田から高千穂へ向かう県道8号からさらに細道に入った場所にある。円形分水の名前の通り、水の争いを解決することを目的に造られた、公平に水を分配する仕組み。1934(昭和9)年に完成した。円形の真ん中に水を集め、越流させて三等分し、三方に水を送っている。
 同じく県道8号にかかるのが「明正井路第一拱石橋」。6連石造の水路橋で、1919(大正8) 年に完成。長さが約78mもあり、車道と川を跨いで架かる6連のアーチが、山里の風景のなかに溶け込んでいる。
 国道57号の脇道にある「若宮井路笹無田水路橋」は長さ約59mの石造2連アーチ橋。1901(明治34)年に通水。約30mの高さがあるので見上げると迫力がある。ここは、鉄道と車道がすぐ横を並んで走っているため、一緒に写真に収める鉄道マニアが訪れるという。
 「明治岡本井路」は“石垣井路”の異名をもつ。石垣を積み上げて水路を作っており、高さは3.5~5.5m、長さ約240m。もともと箱桶であった井路を、1921(大正10)年に石造りに改修して完成させたもの。1996(平成8)年に国の登録有形文化財に指定された。
 このほか、城原井路、若宮井路鏡水路橋などもある。
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みどころ

大分県全体で土木遺産的な価値のある農業水利施設は見られるが、竹田周辺の井路には、“水と石”というこの辺りの地形的特徴がよく出ている。竹田は祖母山、くじゅう連山*、阿蘇外輪山の恵みである名水の地であり、多くの湧水群や滝などがある。また、阿蘇山の火山活動でできた溶結凝灰岩を主体とした地形が広がる。地元の石材を用いた水利施設からは、水の豊かさ、石の文化を感じる。
 農業遺産としての価値に、この地ならではの地形的な特徴が加わっているのが興味深い。灌漑用水路という、生活に根差したものであること、また、石橋、石垣、円形分水、ため池(白水ダム)と、さまざまな井路の形が見られることも興味深い。
 駐車場の用意がない山がちな場所もあり、訪問に向かない箇所もあることを踏まえておきたい。
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補足情報

*「くじゅう」の表記は昔から「九重」と「久住」の2通りがある。諸説があるが、現在、大分県の統一解釈では久住山は連山の主峰を指し、九重山は山々の総称としている。