琴平門前町ことひらもんぜんまち

「こんぴらさん」といえば、石段の両側にびっしりと土産店が建ち並ぶ表参道のようすが目に浮かぶ。現在の琴平門前町は、表参道とそれに続く新町商店街、参道口で表参道と交わる神明町通り、JR琴平駅から神明町までの通りがそのおおよその範囲である。神明町通りは1889(明治22)年に讃岐鉄道(現JR土讃線)の開通に合わせてできた新道で、旅館や土産物店が並んだ。1923(大正12)年に駅が現在の場所に移転するのにともない、駅から大宮橋を渡って神明町に出る道が新設された。
 参道口から石段にかけては、かつては「こんぴら詣で」の来訪者を驚かせた立派な店構えの宿屋が軒を連ねていたが、今ではその面影を残す建物は少なくなった*。蔵元の西野金陵や令和元年に復元された老舗旅館「敷島館」が以前の店構えの様相を残している老舗である。石段を100段ほど上ったところで旧伊予土佐街道が合流し、ここから大門までが江戸時代の門前町。113段目で備前焼の狛犬のある鳥居をくぐると、「一之坂」に入り傾斜が急になる*。途中168段目付近で、左手の土産店が途切れ、灯明堂がある。中には釣燈籠が下げられていて、早朝や夜間はあかりが灯される。芸予諸島の講中の寄進により1858(安政5)年に建てられたもので、船の下梁を利用して作られている。金刀比羅宮の総門である大門は365段目に位置し、ここから先は神域となる。
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みどころ

レトロ駅舎のJR琴平駅を出ると正面の大きな鳥居越しに象頭山が見える。琴電琴平駅の手前、北神苑にある高燈籠は東讃岐の人々が講を組織して献納したもので、1860(安政7・万延元)年に建てられた。高さは27.6mあり、内部は3階建てで木造燈籠としては日本一の高さを誇る。その明かりは琴平から15kmほど離れた丸亀市の、さらに沖合の船からも確認できたと言われている。「鞘橋」は参道口から南へ約150m、神事場(南神苑)の手前で金倉川にかかる屋根のある珍しい浮橋(橋脚がない)。最初は1624(元和10・寛永元)年に現在の一之橋(表参道に続く橋)の所に架けられたが、洪水などでたびたび修復・再建され、現在の橋は1869(明治2)年に建築されたものである。1905年(明治38)年に現在の場所に移築され、金刀比羅宮のお田植祭、例大祭の潮川神事と神輿渡御に限り使用される。
 江戸時代、多くの旅人が利用した参詣道には灯篭や丁石などが設置され、街道として整備された。主に中国以西と北陸など日本海側の人たちが利用した旧多度津街道の終点近く、高薮地区には石灯籠が残っている。主に上方以東の人たちが利用した旧丸亀街道*では、終点の高燈籠から金倉川に平行して新町商店街へ進むと並び燈籠がある。旧伊予・土佐街道は愛媛・高知から続く街道で、幕末には坂本竜馬ら歴史上の人物も歩いたといわれる道。坂本龍馬像のある牛屋口から谷に沿って参道へと続く細い道は、江戸時代の街道の雰囲気そのものである*。
 江戸時代の門前町では芝居、相撲、操り人形などの興行が行われ、こんぴら詣での楽しみのひとつとなっていた。年3回程度の芝居の興行には仮小屋がその都度建てられていたが、1835(天保6)年に常設の芝居小屋として建てられたのが、旧金毘羅大芝居(金丸座)である。もとは参道入口に近いところに建っていたが、1976(昭和51)年に現在の愛宕山中腹に移築復原された。旧金毘羅大芝居から少し下ったところにある琴平町公会堂は大寺院の建物かと見間違うほど大きく立派な和風建築。1934(昭和9)年に建造され、現在も地域における公民館のような役割を持つが、かつては琴平にある旅館の共同の催事場としても使われていた。公会堂のすぐ下にある松尾寺は、明治維新で神仏習合を解消した際に旧松尾寺金光院(金毘羅大権現)から移った寺。旧金光院の大師堂本尊であった弘法大師坐像をはじめ、金毘羅大権現象などを所蔵している。(勝田 真由美)
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補足情報

*旧櫻屋の建物はうどん店に。金陵の向かいにあった旧備前屋は旅館の琴平花壇として神事場の対岸で営業。江戸時代に芳橘楼と称した旧敷島館は約20年前に廃業したが、2019(平成31・令和元)年に全国でホテル事業を展開する会社が、明治期の敷島館のたたずまいを再現した旅館をオープンしている。
*大門まで観光用の駕籠があったが、担ぎ手の高齢化により2020(令和2)年1月に廃業した。
*江戸や京都・大坂からの参詣客は大坂の船宿で参詣船を仕立て、丸亀までやってきた。
*主要な「こんぴら街道」には他に高松城下から続く旧高松街道(新町商店街、表参道につながる)、徳島から峠を越える旧阿波街道がある。
*令和4年9月~(未定)工事中 
関連リンク 琴平町(琴平町役場)(WEBサイト)
参考文献 琴平町(琴平町役場)(WEBサイト)
うどん県旅ネット(公益社団法人香川県観光協会)(WEBサイト)
『香川県の歴史散歩』山川出版社

2022年11月現在

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