香川の讃岐うどんかがわのさぬきうどん

香川県といえば何をさておき「讃岐うどん」と言われるほど有名。コシと言われる麺のシコシコ・モチモチした食感が最大の特徴で、この麺の食感という共通の価値観を除けば、メニューはバリエーションに富み、食べ方の自由度も高い。また、スープやたれのことを「つゆ」と呼ばず、分量や濃淡を問わず「だし」と呼び、ベースにイリコ(煮干し)を使っているのも特徴である。
 うどんは観光客向けの名物というよりは、地元でとくに好まれている料理であり、県民の生活に密着した食物・食習慣となっている。実際、うどん店の数やうどんの消費量も多い*。うどん店は高松市や中讃(丸亀市を中心とする県中部)を中心に県全域に分布し、観光客の目標となるような集中地域もない。ほとんどの店が平日の正午をはさむ3、4時間を中心に営業しており、もっぱら勤労者への昼食の提供を想定している。また、県内では現在でも冠婚葬祭や地域のイベントなどでうどんが振舞われることが多い。
 うどんの起源として地元でよく聞かれるのは、弘法大師が唐から伝えたという説と団子汁の団子が麺状に発展したという説であるが、詳細は明らかになっていない。しかし、雨が少ない香川県は小麦の栽培に適しており、塩、醤油、イリコなどの材料も地元の特産品であったことは、うどん文化の形成に少なからず影響していると考えられる。18世紀初頭に描かれた『金毘羅祭礼図屏風』にも3軒のうどん屋が認められるが、県内で現在のようなうどん専門店が数多く登場するのは1960(昭和35)年代中頃と、意外と新しい。1970(昭和45)年の大阪万博で讃岐うどんの手打ち実演が行われたことから知名度が上昇し、その後間もなく、コシの再現性が高い冷凍うどんが市場に登場して、全国的に普及した。1988(昭和63)年の瀬戸大橋開通で四国への観光客が増えるとともに、これと前後して地元タウン情報誌に連載された県内の個性的なうどん店の紹介企画*が評判を呼ぶ。県内でうどん屋めぐりが流行し、県外からも味に加えて個性的な店自体を楽しむ客が増え、テレビや雑誌でも盛んに取り上げられた。1998(平成10)年には明石海峡大橋が開通し、京阪神方面からのアクセスが格段によくなり、週末には田舎の「穴場店」に観光客が行列を作る光景が見られるようになった。
(文責:公益財団法人日本交通公社)
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みどころ

讃岐うどんの最大の特徴であるコシはその製造方法によるものとされる。「讃岐うどん」は有名になりすぎて一般名称化し、地域団体商標登録の対象外とされるが、「名物」「本場」「特産」の表示する場合には全国生麺類公正取引協議会による基準が設けられている*。この基準を満たし、季節に合わせた塩水の配合、足踏みや手打ちによる強すぎず均一でない混ぜ延ばし、十分な生地の熟成といった讃岐うどん独自の製法を採用することにより、食感は軟らかいが、弾力があって歯応えも楽しめる独特のコシが生まれる。讃岐では古くから「土三寒六常五杯」といい、夏の土用の頃は塩1に対して水3、寒中の冬期は水6、春と秋の通常期は水5の割合で塩水を作り小麦粉に混ぜるのが目安とされている。うどんのコシは、ゆで上げ後、時間とともに急速に失われてしまう。同じ店でもタイミングにより当たりはずれがあるとも言われ、回転のいい店で、できたてをいただくのがいちばんである。近年、注文を受けてから、麺をゆで、天ぷらを揚げるタイプの店が支持されているのも頷ける。
讃岐うどんの魅力はうどん店にもある。まず、1杯が200~300円前後からと安価。さらに食べ方のバリエーションが多い、セルフサービス方式や製麺所など店自体がユニーク、多彩なトッピングと独特のサイドメニューといった特徴がある。
 麺の提供方法には大きく分けて、ゆで上がった麺を釜から取った状態の「釜あげ」と、釜から取った麺を水で洗って締めた「水締め」の2種類がある*。かけうどんのような釜あげ以外の温かいうどんは水で締めたものをもう一度温めて提供される。釜あげ麺に生卵を合わせて醤油をかけて食べるのが「釜玉うどん」である。だしには「かけだし」、「ぶっかけ」、「つけだし」(いずれも温・冷あり)があり、醤油や調味された醤油をそのままかけて食べることもある(「しょうゆうどん」)。「水締め」麺の食べ方には「かけ」、「ぶっかけ」、「ざる」のほか、湯や冷水を張った器に麺を放った「湯だめ」と「冷やし」がある。麺とだしの温度を組み合わせて、「ひやあつ」、「あつひや」(麺が先、だしが後)のようにオーダーできる店もあるが、冷たい「かけだし」は夏季限定の場合が多く、店によっては提供できない組み合わせもある。はじめから具の入ったうどんには「しっぽく」、「鍋焼き」、「カレー」などがあり、きつね、月見、肉うどんのように具がトッピングに近いものはメニューにあれば注文できる。薬味にはイリコだしと相性がよい生姜と青ネギが用いられる。このほか唐辛子、すりゴマ、天かすが定番かつ無料であり、ぶっかけには花がつお、大根おろし、スダチまたはレモンが添えられることが多い。
 うどん店のタイプとしては、座席で注文した品がテーブルまで運ばれる「一般店」、カフェテリア式の「セルフサービス店」のほか、「製麺所」に什器等を設け、その場で食べられるようにした店がある。うどん屋めぐりが流行しはじめた頃は、自分で麺を湯がいて、だしを注ぐセルフうどん店が、その作法も含め話題になっていたが、近頃は好みの状態の麺にだしをかけるまでを店の人が行うのが主流となっている。県民でも初めての店では戸惑うことがあるので、あまり心配しなくてよい。
 サイドメニューの定番はおでん、天ぷら、ご飯もの(おにぎり、かやくごはん、いなりずしなど)である。おでんはうどんのだしで煮込まれており、冬場だけではなく、一年中食べられる。好みで白味噌とからしを合わせた「からし味噌」をつける。天ぷらはエビ、アナゴ、ゲソなどの魚介類から季節の野菜、かき揚げまで種類が豊富で、なかでも定番で人気があるのはちくわの磯部揚げである。卵の天ぷらやとり天で個性を出す店もある。天ぷらは、そのまま食べてもうどんのだしに浸してもよい。ご飯ものについては、炭水化物の重ね食いが糖尿病や肥満の一因になっているとの指摘もあり、サラダやお浸しを置く店も出てきた。
 このように、讃岐うどんはすでに全国区の知名度があり、県外にあっても加工品やチェーン店で簡単に食することができる一方、本場の味と店の雰囲気と体験したくなる魅力にあふれている。地元の人には、麺、だし、ボリューム感など優先事項や好みにより、各々お気に入りの店があり、食べたいうどんやサイドメニューによって使い分けもする。このように讃岐うどんらしさは保証されたうえで、絶対的な店というのがないことも、食べ歩きやリピーターに向いている。
(文責:公益財団法人日本交通公社)
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補足情報

*「さぬきうどん全店制覇攻略本2022-2023年版」(タウン情報かがわ)掲載のうどん店は546店。2016(平成28)年に行われた経済センサス−活動調査(総務省)によると、香川県の人口1万人あたり「そば・うどん店」数は5.60店と、全国第1位。これは全国平均の約2.4倍。2021(令和3)年に行われた家計調査(総務省)によると、高松市の1世帯あたり(2人以上の世帯)「生うどん・そば」の年間支出金額(購入)は、6,735円で全国第1位。これは全国平均の約1.9倍。
*『月刊タウン情報かがわ』で連載された「ゲリラうどん通ごっこ」。1993(平成5)年に『恐るべきさぬきうどん』(ホットカプセル発行)として単行本化され県下で発売、後に新潮社から全国発売された。
*1.香川県内で製造されたうどん、2.手打または手打式、手打風に加工したもの、3.小麦粉重量に対しての加水量が40%以上のもの、4.小麦粉重量に対しての食塩量が3%以上のもの、5.2時間以上熟成させること、6.ゆで時間を約15分とし麺を充分アルファ化させていること
*ほかに打ち粉のついた麺をそのまま鍋に入れて煮込む「打ち込みうどん」という食べ方がある。
(文責:公益財団法人日本交通公社)
関連リンク うどん県旅ネット(公益社団法人香川県観光協会)(WEBサイト)
参考文献 うどん県旅ネット(公益社団法人香川県観光協会)(WEBサイト)
讃岐うどん遍路(四国新聞社)(WEBサイト)
『香川県の歴史散歩』山川出版社

2022年11月現在

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