雲辺寺うんぺんじ

香川県と徳島県の県境、雲辺寺山(標高927m)にある、四国霊場八十八ケ所第66番札所。四国霊場では最も標高が高い。寺の住所は徳島県三好市だが、霊場としては古くから讃岐の打ち始めの札所として扱われ、最後の「関所寺」*である。歩き遍路では一つ前の三角寺(愛媛県四国中央市)から峠を越えて進み、徳島県側から雲辺寺山に登る。次の大興寺への急な下りと合わせて「遍路ころがし」とよばれる難所の一つである。1987(昭和62)年に香川県観音寺市側の山麓からロープウェイで結ばれ、参拝しやすくなった。
 境内は約40haあり、スギ、ヒノキなどの古木が多く、霊気をかもし出している。789(延暦8)年に空海が善通寺建立のための木材を求めて雲辺寺山に登り、この地を霊山として感得し、堂宇を建立したのが起源とされる。空海は807(大同2)年に秘密灌頂の修法を行い、818(弘仁9)年に嵯峨天皇の勅命を受けて本尊を刻み、七仏供養を行ったという。霊場は四国の僧侶たちが集まる修行道場となり、「四国高野」と称された。貞観年間(859〜77年)には清和天皇の勅願寺*にもなっている。鎌倉時代は七堂伽藍も整備されて、境内には12坊と末寺8ヶ寺を有したという。天正年間(1573〜92年)に土佐の長宗我部元親が雲辺寺に参拝した際、裏山から眼下を望み四国制覇を目指したが、当時の住職に諫められたという伝説が残る。江戸時代になってからは阿波藩主・蜂須賀公の手厚い保護を受けた。
 2009年落成の本堂には御本尊「千手観世音菩薩」の石像前仏が安置されており、重要文化財の本尊は別の収蔵庫に納められている。
#

みどころ

ロープウェイ山頂駅から古木の林を下って行くと、釈迦の涅槃像を囲むように等身大の五百羅漢像が立ち並んでいる。五百羅漢は、釈迦の入滅後、仏典を編集するために結集した聖者たちであり、四国遍路「涅槃の道場」のスタートにふさわしい。夏には紫陽花が一面に咲いて見事である。本堂横の護摩堂前には、野菜のナスをかたどった「おたのみなす」がある。ナスの花はひとつの無駄もなく実になること、「身を成す」との語呂合わせで、腰掛けて願うと願いが叶うという縁起物。また、「大師乳銀杏(だいしちちいちょう)」と呼ばれている古木がある。弘法大師が母乳が出ない女性のために銀杏の苗を植え、その女性が木の幹を削って煎じて飲むと母乳が出たという伝説が残っている。毘沙門天展望館は台座の内部がスロープになっており、登って外に出ると360度の眺望が楽しめる。
 
#

補足情報

*関所寺:四国遍路で各県に1カ所ずつあり、それぞれがその県で一番の難所で、日頃の行いや信仰心が試されるとされる。徳島県は第19番立江寺、高知県は第27番神峰寺、愛媛県は第60番横峰寺、香川県は第66番雲辺寺。
*勅願寺(ちょくがんじ):天皇・上皇の発願により、国家鎮護・皇室繁栄などを祈願して創建された寺のこと。実際には、寺が創建されてから、勅許によって「勅願寺になった」寺も多い。
関連リンク 四国八十八ケ所霊場会(一般社団法人四国八十八ヶ所霊場会)(WEBサイト)
参考文献 四国八十八ケ所霊場会(一般社団法人四国八十八ヶ所霊場会)(WEBサイト)
四国ケーブル(雲辺寺ロープウェイ)
観音寺市(WEBサイト)
『香川県の歴史散歩』(山川出版社)
『分県登山ガイド 香川県の山』(山と渓谷社)

2023年02月現在

※交通アクセスや料金等に関する情報は、関連リンクをご覧ください。