水若酢神社みずわかすじんじゃ

本土と島後島(隠岐の島町)の玄関口である西郷港から北西へ13km、車で25分の五箇地区にある。
 延喜式神名帳に名神大社と記されている隠岐国一宮。祀られている水若酢命は、隠岐の国土開発と日本海鎮護をされた神様だと伝えられている。社伝によると創建は仁徳天皇(在位は5世紀前半ごろ)の時代と言われている。
 1795(寛政7)年に再興された本殿は、大社造に春日造を加味した、隠岐特有の隠岐造といわれる独特なもので、国の重要文化財に指定されている。
 境内には、樹齢300年を越えるクロマツが建ち並んでいる。参道脇には映画「渾身KON-SHIN」*の舞台ともなった土俵が設けられており、20年に1度の本殿屋根の葺き替え時には、夜を徹した「隠岐古典相撲」が行われる。
 西暦偶数年の5月3日には「水若酢神社祭礼風流」が開催される、日本古来の山車が曳かれ、流鏑馬などの神事が行われる。5月3日、山曳き(やまひき)神事が祭りの幕開けとなる。曳くのは8歳くらいまでの男児で、他郷で暮らす出氏子(でうじこ)の子供たちもこの日のために両親に連れられ帰って来る。それぞれ揃いのたすき、鉢巻、わらじをはいて親たちに手を引かれ、あるいは背負われてこの行列に参加する。山車が御旅所に到着すると、棧敷では獅子舞、一番立、大楽、浦安の舞と続く。一方、馬場では悪霊の退散と五穀豊穰を願って流鏑馬の神事が行われる。
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みどころ

本殿は正面に茅葺の切妻屋根をみせる規模の大きな建築で、隠岐に特色的な形式をとる点では玉若酢命神社本殿と似るが、組物を省略するなど、意匠上は素朴で力強い形式をとる点に特徴がある。
 「水若酢神社祭礼風流」に向けて、五箇の各集落では、山曳きに使う綱を作ったり(綱うち)、山に飾る花を作ったりと、1ヶ月以上も前から準備が行われる。当日には、山曳きや流鏑馬、神幸祭、大楽、獅子舞など伝統を感じさせる神事が厳かに行われていく。祭の中心である「山曳き」は、山車を曳くという神迎え神事の原型を留めている。8歳頃までの男子がたすき、鉢巻きを締め、わらじを履いて親と一緒に山車を曳く姿は微笑ましい。
 夜を徹しての隠岐古典相撲は、本殿屋根の葺き替え時以外にも、町の記念事業、大型公共事業の竣工を記念して行われることがある。夕方から始まり、次の日の午後まで、島中をあげて夜通し行われ、大きな大会では力士が200人以上参加する。取り組みは、割り相撲、五人抜きなど300番近く行われる。隠岐古典相撲は2番勝負で、最初の取り組みでは真剣勝負を行うが、2番目の取り組みでは負けた方に勝ちを譲る”人情相撲”と呼ばれている。この島でしか見ることのできない伝統ある相撲である。
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補足情報

*渾身 KON-SHIN:錦織良成監督、2013(平成25)年1月公開。隠岐に伝わる伝統行事「隠岐古典相撲」を通して、島とともに生きる家族の姿を描いたヒューマンドラマ。地域コミュニティ特有の“地縁”や相撲を巡るさまざまな人間関係を通じて、絆とは、家族とは何かを問いかける。