温泉津温泉ゆのつおんせん

JR温泉津駅の北、温泉津川に沿って細長く旅館が立ち並ぶ。1300年以上前に旅の僧侶が、湯気の立つ水たまりに浸かってひどい傷を癒やしている古狸を目にしたことから発見されたという説が広く知られている。
 平安時代には京都までその存在が伝わり、14世紀以降には湯治客が大勢訪れるようになった。近くの温泉津港が、毛利氏支配の中世以降は石見銀山で採掘された銀の積み出しや鉱山町の生活物資の集積地として機能したこと、また江戸時代〜明治時代にかけては北前船の寄港地であったことから賑わい、船乗りが宿泊する旅館が数多く設けられた。1918(大正7)年、山陰鉄道浜田線温泉津駅の開業により、貿易港としての機能は消失したが、今も湯治場として評判である。
 銀を積み出した港と港町として鞆ケ浦、沖泊、そして温泉津重要伝統的建造物群保存地区は、世界遺産「石見銀山遺跡とその文化的景観」の構成資産になっている。また、温泉津温泉街は温泉町としては全国で唯一、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。
 泉質はナトリウム-塩化物泉で、多種多量の有効成分が含まれている。源泉そのものは透明だが、空気に触れる事で薄い茶褐色等に変化する。外湯は「元湯」と「薬師湯」があり、どちらも源泉にいっさい手を加えない温泉である。港の眺めが間近で、潮の香りが漂っている。釣客の利用も多い。
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みどころ

天然かけ流しであり、泉質に優れる温泉は、大地に育まれたエネルギーを感じることができる。また、レトロな洋風建築が魅力的な外湯の「薬師湯(やくしゆ)」と、温泉津に現存する温泉施設として最古の大正初期に建てられた旧館を利用した「震湯(しんゆ)カフェ内蔵丞(くらのじょう)」が、大正ロマンあふれる情緒を感じさせる。日が暮れオレンジ色の灯りに彩られる町並みは、古き良き日本の温泉街のイメージそのものである。
 温泉津にある龍御前神社では、毎週土曜日の夜に「石見神楽*(ゆのつ温泉夜神楽)」公演が開催され、舞台の間近で見ることができ、迫力満点。
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補足情報

*石見神楽:島根県西部(石見地方)で古くから伝統芸能として受け継がれている神楽のひとつで、島根県を代表する郷土芸能。日本神話を題材に、独特の哀愁あふれる笛の音、活気溢れる太鼓囃子に合わせて、金糸銀糸を織り込んだ豪華絢爛な衣裳と表情豊かな面を身につけて舞う。演目は、厳かな雰囲気の中で神様をお迎えする「儀式舞」や、古事記や日本書紀を題材にした「能舞」など合わせて約30種類にのぼる。大蛇が火や煙を吹くといったリアルな演出や勧善懲悪といった分かりやすいストーリーが特徴である。