大台ヶ原おおだいがはら

大峰山脈の東、奈良・三重を分ける台高(だいこう)山脈の主峰部を指し、大台ヶ原山とも呼ばれる日出ヶ岳(標高1,695m)、三津河落山(さんづこうちやま・標高1,654m)などに囲まれた山頂部は、古生層および中生層からなる隆起準平原*1の名残とされる広い台地状を呈し、周囲は急峻な懸崖となっている。とくに南西部は大蛇嵓(だいじゃぐら)、千石嵓(せんごくぐら)と呼ばれる大岩壁や滝が連なっている。紀伊半島南部は日本有数の多雨地帯で年間雨量4,500mmを超えることから原生林には倒木が苔むして横たわり、イトザサの繁茂する原や湿原も見られる。原生林に一旦湛水された水は、大台ヶ原から北西には吉野川から紀ノ川へ、南には北山川から熊野川へ、北東には宮川となって流れ出ている。宮川の源流付近には多くの名瀑がつづく大杉峡谷*2を形作っている。
 大台ヶ原ドライブウェイ*3によって山頂部の大台ヶ原駐車場まで車で登ることができる。
 駐車場から見て東部および南部にかけては東大台地区と呼ばれ、日出ヶ岳、正木ヶ原、牛石ヶ原、大蛇嵓展望台、シオカラ谷などを周回できる登山コース(約9km)などが設定されている。最高所となる日出ヶ岳からは大峰連山や熊野灘を望むことができ、大蛇嵓などの雄大な岩壁の景観を楽しめる。
 また、駐車場から見て西部から北部にかけての西大台地区は深い原生樹林に覆われており、自然保護のため入山規制*4がなされているが、事前申請すれば、原生樹林帯を縫い、千石嵓などを望みながらの登山コースを歩くことができる。
 大台ヶ原の天候は8~9月には豪雨が多く、11月初旬には初雪が見られることが多く、残雪は4月初旬ごろまである。800mまでは常緑広葉樹、1,500mまでは落葉広葉樹、それ以上はトウヒやシラビソ・トガサワラなどの針葉樹林となる。初夏にはヒメシャラ・シャクナゲが群生し、イトザサは広野を造り、コバイケイソウなども見られる。また、クマ・カモシカ・サル・シカなどの獣類、オオダイガハラサンショウウオなど爬虫類、亜高山性の鳥類、昆虫も種類が多い。
 登山口は、大台ヶ原駐車場からが一般的だが、大杉峡谷に通じる登山道などもある。大杉峡谷の登山コースは桟橋や吊橋などがあり、中・上級者向き。いずれのコースも登山装備をしっかり準備する必要がある。
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みどころ

深田久弥は「日本百名山」のなかで、大台ヶ原山について筆を尽くして称賛している。例えば、日出ヶ岳については「西の方大峰山脈の峰々をひとつひとつ数えることができ、東を振り返れば、すぐ眼下に尾鷲の入江を、小さな島々まではっきりのぞむことができる」とし、牛石ヶ原では立ち枯れのある高原風景を「広濶な原は一面ミヤコザサに覆われて、そのあちこちに大木が立ち残り、一種の自然公園の趣」とも描写している。さらに、大蛇嵓の展望台に立ち、「すぐ眼下は深い谷に陥ち込んで、その向うに絶壁をなしているのが蒸籠嵓と千石嵓である。千石嵓は長さ十町も続く大岩壁で、その間に細く白い滝も落ちているのがみえる」と、ダイナミックな景観を表現している。ただ、大蛇嵓の展望台やそこに至る山道は狭隘なので、注意が必要だ。さらに三重県側の大杉渓谷については「次々とすばらしい滝が現れる。水は清く豊かで、渓谷の美しさは日本中で屈指」だと絶賛している。
 当然ながら、これに紅葉、新緑の彩りが添えられれば、それこそ絶景絶佳の山といえよう。
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補足情報

*1 隆起準平原:数千から数億年前に地殻運動で隆起した土地が、侵食を受けほぼ小起伏の平原状になったあと、再び地殻運動によって高所にもち上げられ、縁辺部では浸食が再び始まり深い谷が刻まれている丘陵、山地。
*2 大杉峡谷:多雨地帯特有の深いV字渓谷や水量豊富な7つの滝や11の吊り橋、断崖をなす嵓(くら)、緑深い原生林や苔がなす神秘的な景観が続く。大杉谷登山口から大台ヶ原駐車場まで約16km、高低差1,415mのコース。途中山小屋も2か所ある。中・上級者向けで、アップダウンも多いのでとくに足回りの準備は入念に。
*3 大台ヶ原ドライブウエイ:大台ヶ原ドライブウェイは、川上村大字伯母谷・国道169号交差点から大台ヶ原駐車場に至る延長約20km。近鉄吉野線大和上市駅からドライブウェイ経由で大台ヶ原駐車場まで約54km。冬期閉鎖期間は毎年11月下旬~4月下旬。国道から分岐した後は、沢沿いに林道のような幅員の狭い道を走るが、尾根筋に出ると2車線となり、眺望が素晴らしい快適な高原ドライブウェイとなる。
*4 入山規制:西大台ヶ原は西大台利用調整地区とされており、立入にあたっては自然公園法に基づく申請手続が必要となっている。事前申請は上北山村商工会まで。
関連リンク 上北山村役場(WEBサイト)
参考文献 上北山村役場(WEBサイト)
大台町観光協会パンフレット
環境省近畿地方環境事務所(WEBサイト)
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
深田久弥「日本百名山」新潮社

2024年12月現在

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