甲府盆地の桃畑こうふぼんちのももばたけ

中央自動車道を西に向かうと、勝沼インターチェンジからは山間部を抜け甲府盆地の南端を走るが、釈迦堂パーキングエリア辺りから車窓はブドウ畑から桃畑へ徐々に変わっていく。4月上旬から中旬にかけて、甲府盆地の東部の南側の丘陵地帯は、桃の花に覆われ、濃いピンクの絨毯を敷き詰めたようになる。
 山梨県は古くから甲斐八珍果*と呼ばれる果物の特産地として知られている。桃についても江戸後期の「甲斐国志」に特産品として、「残簡(断片の)風土記ニ巨摩郡ノ貢物ニ見ユ 所在ニ多シ」とあり、甲府盆地の西部を中心に栽培されていたと思われる。大正期に入り、現在の主生産地である、笛吹市や山梨市でも栽培が始まり、養蚕業の衰退に伴い、第2次世界大戦後、桑から桃への作付け転換が進んだ。甲府盆地は昼夜、季節の寒暖差が大きく、日照時間も長く、降水量も少ない内陸性気候で、水はけなど土壌・地形も果樹に適していることから、桃の栽培面積が大幅に増え、全国でも有数の産地となった。
 桃の花の見ごろは4月上旬から中旬。笛吹市を中心に数カ所、桃畑が展望できる公園、展望台*がある。
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みどころ

甲府盆地の東部の南半分の丘陵地帯は、4月上旬から中旬には桃の花が一斉に咲き誇り、ピンク色の絨毯を敷きつめたような、まさに「桃源郷」と呼ぶにふさわしい光景となる。JR中央本線や中央自動車道の車窓から垣間見ることもできるが、ぜひ、笛吹市を中心として点在する公園、展望台に立ち寄り、春霞に煙る甲府盆地と残雪を残す南アルプス、八ヶ岳の山並みを背景に、ピンクに染まる桃源郷の眺望を楽しみたい。
 山梨の生んだ俳人飯田蛇笏は、桃畑やブドウ畑が続く丘陵地帯にある笛吹市境川町の居宅「山廬」で生涯を過ごした。そのため、桃に関する句も多く、桃畑の景観を詠んだ句では「あめふれど霧消す丘べ桃の花」「富士かくる雨に桃さく田畔かな」などがある。この句が描く、春ののどかな気候のもと、桃畑と甲州の山並みの美しさを存分に楽しみたいもの。
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補足情報

*甲斐八珍果:ブドウ・ナシ・モモ・カキ・クリ・リンゴ・ザクロ・クルミ(あるいはギンナン)。いつ頃から八珍果として称されたかは定かではないが、江戸時代の典籍には特産品として果物の名が挙がっている。
*公園、展望台:笛吹市内を中心に点在するが、主なものは以下のとおり。                                           ○釈迦堂遺跡公園・博物館付近:中央自動車釈迦堂パーキングエリアから徒歩でアクセスできるので便利。桃畑が一望できるほか、甲府盆地越しに南アルプスや八ヶ岳の山並みも遠望できる。桃が咲く時期には「釈迦堂遺跡公園」では産地直売も行われる。
〇花鳥山一本杉公園:甲府盆地や南アルプス連峰を見渡す花鳥山にある公園。春には、桃や桜でピンクに染まる甲府盆地を見下ろせる。名の由来となった一本杉は、1814(文化11)年に完成した江戸時代の地誌『甲斐国志』にも記された杉の巨木だ。眼下にはリニア実験線が走り、展望台には走行状況が表示されるモニターも設置されている。
○八代ふるさと公園:周辺の桃畑と併せて甲府盆地が一望できる。前方後円墳「銚子塚古墳」と「盃塚古墳」が復元されており、その上からの眺望も壮大。公園内には300本の桜が植えられ、芝生の広場や遊具施設もあるので、花見には格好の場所。近くにはリニア新幹線の地上走行区間の軌道を観ることができる展望台もある。
○みさか桃源郷公園:桃畑が間近に迫り、池が配され、散策路も整備されている。公園のシンボルである「平成の塔」からの甲府盆地や南アルプスの山並みの見晴らしも良い。