藤切り祭ふじきりまつり

甲州市勝沼町柏尾にある大善寺で毎年5月2日から5月5日に行われる祭りである。修験道の開祖といわれる役小角(役行者)が大蛇を退治しこの地を災厄から救ったといわれる故事に習い、そのご利益をさずかろうと始まったという。総代を務める地元の人々と、大善寺と近隣の真言宗寺院の僧侶たちが参加して執り行われる。
 5月2日の「藤取り」から祭りが始まり、4日に「旗立て」。祭りの中心となる5日は、まず「天狗祭り」で大蛇を御神木に祀り、その後、「稚児行列」、薬師堂での「護摩祈祷」などが行われ、「山伏問答」、「投げ藤」など修験者たちの修行に関する所作に入る。さらにその修験者たちが大蛇退治に向かい、役行者の法力で大蛇が退治されるというストーリに沿った所作を薬師堂前で展開する。かつては、高さ三間半(6.3m)もあるご神木から七尋半(約13.5m)の大蛇に見立てた藤の根*を役行者役の修験者が切り落とす「藤切り」が行われ、落ちてきた藤の根を若者が競って争奪した。コロナ禍以降の2020(令和2)年から、大蛇の奪い合いは行わず、御神木に巻き付けた藤蔓*を総代が切り分け、希望する参詣者に配布している。
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みどころ

この地の民間信仰をもとにした山岳信仰(修験道)の影響が強く残る祭りであり、この祭りの中に仏事から神事までの流れが含まれている。明治期の神仏分離政策の苦難を乗り越え、現代まで引き継がれた貴重な神仏習合の祭りとしてみると、極めて興味深い。
 修験者が藤の根を切り落とすクライマックスとその後の奪い合いは、勇壮そのものであったが、コロナ禍を経て2024(令和6)年度より、大蛇の奪い合いはせず、希望者に総代が切り分けて配布する形式となった。
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補足情報

*藤の根:大蛇を模っており、これを切り落としたものを奪い合うことにより、かつては、大善寺山での草刈りなど入会いの権利の獲得や養蚕の繁栄を願うなどの信仰の対象とされてきたという。現在は1年間の家内安全、開運などを願う。
*藤蔓:「破邪顕正の守護藤」として豊作、開運成就、魔除けに効験ありとされ、総代に切り分けてもらう。家に持ち帰って1年間、家のお守りとするという。

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