薬師岳やくしだけ

飛騨山脈(北アルプス)北部の立山連峰南部に位置し、標高は2,926m。立山(たてやま)や剱(つるぎ)岳の峻険(しゅんけん)な山容に比べ、雄大だが穏やかな山容を示しており、重量感のあるどっしりとした山容は北アルプス随一だといわれる。薬師岳は山麓有峰の住民の信仰の山で、頂上には薬師堂が祀られている。立山などと同様に、薬師岳も山岳信仰の対象であり、本尊を阿弥陀如来とする立山(雄山)に対し、薬師岳は薬師如来の浄土として信仰を集めた。伝承によると、有峰村の職人ミサノマツが薬師如来に導かれて登頂したのが開山という。山頂の小祠(しょうし)には薬師如来などが祀られている。かつては旧暦の6月15日に西麓の有峰村の住民が登山し、薬師如来に剣を奉納する風習があった。
 東側の斜面にある「薬師岳の圏谷群」には、南稜カール、中央カール、金作谷カール、谷壁が崩壊した北カールの4つがあり、氷河の浸食による地形として最も著しく、学術上特に価値が高いとされ、1952(昭和27)年、国の特別天然記念物に指定されている。
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みどころ

深田久弥『日本百名山』によると、「薬師岳は白馬や槍のような流行の山ではないが、その重量感のあるドッシリとした算用は北アルプス随一である。ただのっそりと大きいだけではない。厳とした基本も備えている。」という。
 薬師岳への一般的な登山ルートは、有峰ダム近く、1,355mの折立を起点に、五光岩ベンチ2,196m、太郎平小屋のある太郎兵衛平2,330mを経て薬師堂のある山頂に至る。頂上から北上すると、スゴ乗越を経て五色ヶ原に至り、さらに北上するとザラ峠、浄土山を経て室堂へと縦走できる。また、太郎平小屋からは、薬師沢小屋を経て、雲ノ平へのルートがある。
 深田によると「山のボリュームの大きさを最も満喫する実感するのは雲ノ平からの眺めであり、巨大さと共に、厳とした気品も感じられる」という。一方で、今はダムに沈んでしまった有峰村からの姿は「岳は日に五たび色を変えるといわれていたそうだ」と振り返り、「夕方、頂上近くの残雪が赤く映えて、下の方から紫色に暮れていく美しさは何とも言いようがなかった」と書いている。
 薬師岳の開山祭は、毎年6月に富山市大山地区の亀谷温泉郷にある播隆上人像の前で、夏山開きと記念登頂会が執り行われる。開山式は富山市大川寺による仏式の山開きが執り行われている。
 平野部からは薬師岳の手前に特徴的な角錐形の山が見えるが、それは戦国時代佐々成政の埋蔵金伝説の残る鍬崎山(2,090m、日本三百名山)である。
関連リンク ロッジ太郎(WEBサイト)
参考文献 ロッジ太郎(WEBサイト)
とやま観光ナビ(富山県地方創生局 観光振興室・公益社団法人 とやま観光推進機構)(WEBサイト)
『富山県山名録』橋本廣・佐伯邦夫編 桂書房
『日本百名山』深田久弥 新潮社
『名山の文化史』高橋千劔破 河出書房新社

2025年03月現在

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