江戸城跡えどじょうせき

室町時代に太田道潅が秩父平氏の流れを汲む江戸氏の館跡に城を築いたのが、江戸城のはじめと伝えられている。当時は海辺に近い、けわしい崖の上に立ち、周囲に堀をめぐらせた堅固な城郭であったとされている。道潅の死後、上杉氏、北条氏を経て、1590(天正18)年に徳川家康が入城し、1606(慶長11)年から30年間、徳川家康・秀忠・家光の三代にわたって大拡張が行われた。1636(寛永13)年に外郭の城門が完成し、現在の千代田区のほぼ全域を含むわが国最大の巨城となった。本丸・西の丸・北の丸などのある中心部の内郭だけで約73万3200m2。掘割は本丸を中心に左へ巻いてゆく形で三重にめぐらされ、外郭だけで三十六見付*1と呼ばれる城門があった。殿舎は本丸・西の丸が特に豪壮で、天守台をはじめ多数の櫓*2があったが、のちにしばしば火災に遭い、次第に再建されない建物が多くなった。1868(慶応4)年に江戸城は徳川氏から官軍の手に移り、東京城と名を改め、翌年御所となると、古い城門や櫓は次第に取り払われ、外堀も多く埋め立てられた。さらに関東大震災、東京空襲の被害に遭い、かつての巨城の面影を偲ぶものは櫓・城門など数棟の建物と、内郭部の掘割・石垣などである。
 現在は、江戸城跡の中心部は皇居となっている。吹上御苑、吹上御所、儀礼や公務を執行する宮殿(正殿・豊明殿・長和殿)、宮内庁など皇居の主要機能はおもに西側の吹上地区*3(旧吹上苑)に点在しており、旧本丸・二の丸・三の丸の一部は皇居東御苑*4として一般にも公開している。また、旧北の丸はかつては近衛師団の兵営地であったが、第2次世界大戦後、国民公園皇居外苑の一部として北の丸公園*5となった。同様に皇居の南側、二重橋前なども皇居外苑として公園化されている。
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みどころ

江戸城跡の遺構を参観するのであれば、東御苑を訪ねるのが良い。まず、東御苑の北桔橋(きたはねばし)門から入ると最初に大きな石垣に突き当るが、これが天守台跡。江戸城の天守閣は三度建てられたが、明暦の大火(1657年)以降は再建されていないものの、精緻な石組みと石の色合いは美しい。天守台の東側には皇室の音楽堂で、鮮やかなモザイク模様の桃華楽堂が建つ。天守台の上からは本丸跡の芝生広場と豊かな植栽が広がるのが見え、その先に丸の内の高層ビル群がそびえている。そこから右回りに芝生広場の脇を抜けると、なにも遺ってはいないが、忠臣蔵で知られる松の廊下跡、そして江戸城跡最古の建築物の富士見櫓に辿り着く。そこから同心番所、百人番所を過ぎると、左手に皇居三の丸尚蔵館*6があり、大手門へと向かうことになる。もちろんこの逆コースでも十分に楽しめる。
 江戸城跡の見学では、石垣もみどころのひとつだ。東御苑東側の白鳥濠の上をめぐる石垣は江戸開府期の城内最古の石垣といわれ、大きさをほぼ同じに整形して石を積み、すき間に間石(あいいし)を摘める「打ち込みハギ」といわれる積み方がされている。汐見坂と梅林坂の間の石垣は、石と石とを密着させて積み上げる「切り込みハギ」という積み方で、「すだれ仕上げ」といわれるスジをいれた装飾がなされている。さらに、江戸城天守台の石垣は規則的に積み重ねられており、「切り込みハギ」の完成形の「布積み」と呼ばれる石組みで、石垣の角は、隅石に畳石(長方形の石)の長辺と短辺を互い違いに向けて積み上げる「算木積み」となっており、外桜田門付近では六角形に整えられた「亀甲積み」の積み方がなされている。このように各所の石垣で多彩な積み方を見ることができる。また、石垣には多種類の刻印が見られる。石材の切り出しや担当大名を表す印、切り出す職人棟梁を表す印などといわれており、これを見つけるのも楽しみのひとつだ。
 なお、サクラの開花期と紅葉期には吹上地区の乾通りが一般公開され、東京駅側の坂下門から北の丸公園側の乾門への通り抜けができ、花見を楽しむことができる。公開日などは事前確認が必要。また、東御苑ではガイド案内*7が実施されている(無料)。
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補足情報

*1 見付:掘割にかけられた城門、見張り所のこと。外郭の雉子橋から神田橋・梶橋・溜池・赤坂見付・四谷見付・市谷見付から東の浅草御門まで、各所に見付があった。
*2 櫓:城郭建築における高楼。完成当初の江戸城の櫓は大天守1、小天守1、三重櫓6、二重櫓10、単層の櫓4、多聞26を数えた。この中で、現在遺構として見られるもっとも古いものは、東御苑の旧本丸地区にある富士見櫓である。
*3 吹上地区:吹上地区の宮殿東庭、二重橋、山下通りなどの参観は、火曜日から土曜日(休祝日は除く)に午前・午後1回ずつ行われる。事前受付・当日受付にて実施。参観無料。なお、新年、天皇誕生日の一般参賀は宮殿東庭で行われる。入口は東京駅側の桔梗門。
*4 東御苑:面積約21万m2。年末年始及び行事などがある場合を除き、原則として月曜・金曜が休園。開園は午前9時からだが、閉園時間はシーズンにより異なるので注意が必要。入口は大手門・平川門・北桔橋(きたはねばし)門の3ヶ所。参観無料。
*5 北の丸公園:面積19万3千m2。1969(昭和44)年開園。千鳥ヶ淵と牛ヶ淵に沿う旧江戸城の石垣に囲まれ、常緑広葉樹を主とした木々が繁茂して多様な野鳥が生息し、静謐な植生景観を有している。ことにサクラ、紅葉が美しい。また、日本武道館、科学技術館などの文化施設があることでも知られている。隣接して千鳥ヶ淵戦没者墓苑、国立近代美術館などがある。
*6 皇居三の丸尚蔵館:皇室に継承されている絵画・書・工芸品などを展示している。収蔵品を中心とするテーマ別の展覧会も開催される。なお2025(令和7)年5月7日から一時休館しており、全面的な開館は2026(令和8)年秋の予定。
*7 ガイド案内:皇居東御苑の歴史や遺構などを説明する「定例ガイド案内」のほか、四季折々の植物について解説する「植物観察ガイド案内」がある。
関連リンク 宮内庁(WEBサイト)
参考文献 宮内庁(WEBサイト)
「皇居」「皇居東御苑」パンフレット 公益財団法人菊葉文化協会
「国民公園 皇居外苑・北の丸公園の概況」(環境省)(WEBサイト)

2025年06月現在

※交通アクセスや料金等に関する情報は、関連リンクをご覧ください。

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