大島のツバキおおしまのつばき

東京・竹芝客船ターミナルから東海汽船の高速船に乗れば、最短1時間45分で着ける大島で、「大島町の木」および「大島町の花」に制定されており、伊豆大島を象徴する植物がツバキ。強くしなやかな幹枝と常緑の厚い葉を持つツバキは風、塩や炎に強いため、防風林にも適しており、島特有の強い季節風から守るため家や畑の周囲に数多く植えられた。そして、太く伸びた枝は薪炭材に、ツバキの種子は油に加工されるなど、島の暮らしに欠かせない存在となった。温暖多雨の気候と火山灰やスコリア*が覆う水はけのよい地面はツバキの生育に適しており、島内に推定約300万本のツバキが自生しているといわれている。
 縄文時代の遺跡「下高洞遺跡(しもたかぼらいせき)」*の地層からツバキの葉の印象化石*が発見されており、当時から島にツバキが自生していたことがわかっている。自生種は五弁の花びらを持つ一重咲きのヤブツバキ*で、島の民謡「大島節」にも「わたしゃ大島一重の椿、八重に咲く気はさらにない」と歌われている。
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みどころ

大島のツバキは現在ではなかば野生化して、各所に並木やトンネルを作っている。小道を覆う椿トンネルや椿並木、都立大島公園椿園、都立大島高校椿園、椿花ガーデンなどが名所である。また、ツバキを原材料としたヘアケアやスキンケア用の椿油、食用の椿油などの特産品の買い物も楽しみの一つである。伊豆大島のツバキは、早いものでは初秋9月頃から、遅いものでは晩春を過ぎる5月頃までと、開花期間が長いことが特徴である。花の最盛期は1月中~2月中旬で、実は9月に採取される。
 伊豆大島を舞台にした都はるみのヒット曲「アンコ椿は恋の花」*(アンコつばきはこいのはな)の歌碑が波浮港近傍に建立されている。
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補足情報

*スコリア:火山噴出物の一種で、ガスの抜けた穴が多数ある岩石のうち、安山岩質や流紋岩質のマグマからできる白っぽい軽石に対し、玄武岩質のマグマからできる暗黒色のものを指す。
*下高洞遺跡:伊豆大島の西岸、元町港近くにある縄文時代早期から弥生時代にかけての遺跡。海岸線からわずか数メートルのところに火山灰が厚く堆積した比高二五メートルの海蝕崖があり、その壁面の崩壊によって遺物が検出された。現在のところ伊豆諸島最古の遺跡であり、また伊豆諸島唯一の縄文貝塚としても重要で、1986年には東京都の指定史跡に指定されている。
*印象化石:動植物の生体が堆積物などに強く押しつけられ、輪郭のみが化石となったもの。
*ヤブツバキ:本州、四国、九州、朝鮮半島に自生するツバキ科の常緑高木。日本の固有種で、東北地方では海岸沿いに多く、それ以外の場所では山地にも見られる。日本を代表する花木の一つで、藪に生えるツバキをヤブツバキと呼ぶ。
*アンコ椿は恋の花:1964年10月5日に発売された都はるみの3枚目のシングル曲。曲名にもある「アンコ」とは、大島のことばで目上の女性を指し、「お姉さん」の訛った語とされている。