至仏山しぶつさん

尾瀬の南西にそびえる山で、標高2,228m、燧ケ岳とともに尾瀬を代表するシンボリックで雄大な山。至仏山の名前は渋沢沿いにしか登る道がなく、その「しぶっさわ」から来たのではないかともいわれている。
 尾瀬ヶ原から見ると南北の稜線がなだらかな線を描き、ほぼ左右対称の女性的なピラミッド型である。しかし西側は対照的に、岩壁の厳しい山容である。尾瀬ヶ原側の東面は凹凸が少ないものの南北方面に比較すると傾斜がきつく、尾瀬ヶ原から登山すると見た目以上の急勾配にとまどう。
 森林限界が低く、蛇紋岩*でできているため、高山植物が豊富である。エーデルワイスの日本版であるホソバヒメウスユキソウやクモイイカリソウなどの希少種や、ハクサンイチゲ・チングルマ・シナノキンバイ、至仏山で発見されたオゼソウなどのお花畑がある。特に登山道中腹にある高天ヶ原はその規模が大きい。
 山頂は展望が開け尾瀬ヶ原が鳥瞰図のように広がり、その向こうに燧ケ岳が堂々とした姿でそびえ立つ。また武尊山・アヤメ平・日光の山々、遠方には北から南アルプス、富士山まで望めることもある。
 登山するには、鳩待峠から小至仏山の稜線に出て山頂に至るコースと、山ノ鼻から直登するコースが一般的である。山頂~山ノ鼻間の登山道は5月上旬から6月下旬まで登山禁止、その他の雪のないシーズンも環境保全のため下りは禁止され、登りの一方通行である(以前は完全禁止のこともあったので確認が必要)。群馬県みなかみ町の湯ノ沢小屋から笠ヶ岳を経て至仏山に至るコースもあるが、熟練者向きである。
 至仏山から小至仏山にかけての東斜面は春スキーの好適地で、残雪期間中だけ山頂から尾瀬ヶ原まで滑走することができ、スノーシューによるトレッキングも楽しめる。
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みどころ

深田久弥は「至仏山とはいい名前である。文字もいいし、発音もいい。文学的である。」とほめている。
 なんといっても尾瀬ヶ原からのなだらかでピラミッド型の山容がすばらしい。尾瀬ヶ原の見晴方面から歩いてくると、天気の良い早朝は朝霞がたれこめており、徐々に霧がとれてくるとその山容が徐々に現れてくる。尾瀬ヶ原を縦断する約1時間半常に美しい姿を眺めつつ進む。登山口の山の鼻からは傾斜のきつい登山となるが、森林限界を超え尾瀬ヶ原が見下ろせるところまで来てから振り向くと、尾瀬ヶ原と燧ケ岳の美しい景観が目に飛び込んでくる。山頂に達するとクライマックスを迎え、尾瀬ヶ原をはるばる超えて山頂まで到達した達成感で感激する。
 至仏山は高山植物の宝庫といわれるだけあって、色とりどりのお花畑が目を楽しませてくれる。開花順に並べると、ユキワリソウ・ベニサラサ・ドウダン・オオサクラソウ・ジョウシュウアズマギク・ムシトリスミレ・コマクサ・タカネシオガマ・シブツアサツキ・イブキジャコウソウなどが至仏山の代表花としてあげられる。(林 清)
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補足情報

*蛇紋岩:蛇紋石を主成分とする岩で全国に広く分布する。建材用の骨材や石材、肥料としても使われることがある。非常に滑りやすく、割れやすいため登山の下山には適さない。また道が深く削られやすいため尾瀬では登り専用の一方通行となっている。地表に露出、風化することで自然飛散し、その成分が植物にとって有害な成分を含むためそれに耐える特殊な植物、希少種の高山植物が生育している。

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