尾瀬ヶ原おぜがはら

尾瀬沼の西約4km、至仏山・燧ケ岳・景鶴山・アヤメ平など2,000m級の山々に囲まれた盆地状をなす標高1,400m内外の高地に、東西約6km、南北約2kmにわたって広がる本州最大の湿原で、尾瀬を象徴する存在である。牛首と沼尻川を境に、下田代・中田代・上田代に分かれている。尾瀬ヶ原ははじめ燧岳溶岩流が只見川をせき止めてつくった古尾瀬湖といわれる湖であったが、約7000年の年月を経て沼から高層湿原*へと発達し、現在に至っている。
 高層湿原の顕著な例は中田代に見られ、花粉、昆虫の羽、樹枝などからなる泥炭層が盛り上がっている。湿原に点在する池塘とそこに浮かぶ浮島*、湿原を蛇行して流れる川に沿って見られるハルニレ・オノエヤナギなどからなる拠水林*、四季それぞれちがった顔を見せる植物や昆虫たち、湿原をいたわるようにつづく木道、これらが尾瀬ヶ原を特徴づけている。
 大小さまざまな池塘は600を超えるといわれ、底まで見通せるような水に可憐なオゼコウホネ・ヒツジグサなどを浮かべ、神秘的なたたずまいである。尾瀬ヶ原には約140種の植物が生育しており、初夏は拠水林に多く見られるミズバショウの大群落をはじめ、リュウキンカ・ヤチヤナギ・ザゼンソウ・ショウジョウバカマ・ヒメシャクナゲ・オオバタチツボスミレ・ウラジロヨウラク・綿をちぎって飛ばしたようなワタスゲなど、夏は湿原一面をオレンジ色に染めるニッコウキスゲ・ヒオウギアヤメ・カキツバタや食虫植物であるナガバノモウセンゴケなど、秋はオゼヌマアザミ・エゾリンドウなどが咲き、目を楽しませてくれる。
 湿原の東端の下田代十字路は見晴ともいわれ、数軒の山小屋が集まっており、各方面への基地となっている。中田代の竜宮小屋の近くでは竜宮と呼ばれる川が、湿原の泥炭層の中を流れる珍しい現象が見られる。至仏登山口、上田代の山ノ鼻には尾瀬山の鼻ビジターセンター*、尾瀬植物研究見本園があり、尾瀬を知るのによい資料を提供してくれる。
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みどころ

本州で最大の面積を誇る湿原。東西方向6kmの両端に至仏山、燧ケ岳が堂々とそびえ立ち一度目にした者には忘れられない景観である。積雪による水量が豊富で只見川の支流が多く流れ込み、川の周辺にはミズナラ、ソウシカンバ、シラカバなどの拠水林を形成し、湿原の景観にアクセントを添えている。
 高山植物の宝庫であり、初夏のミズバショウの大群落、夏のニッコウキスゲの大群落のほか様々な花が咲き乱れる。尾瀬の静けさを味わうなら秋。一面のクサモミジに覆われた湿原を風の音を聞きながら歩きたい。
 流水が豊富で水もきれいなためホタルも大量に発生し、シーズンには乱舞する姿が見られるが、クマに遭遇する危険性もあるのでガイドツアーで参加することを強く勧める。
 1949(昭和24)年、NHKのラジオ番組で「夏の思い出」の歌が流れ視聴者の心に響き、尾瀬とこの曲が一躍知れ渡ることとなり、当時の若者にとって尾瀬があこがれの地となった。
 ダム建設計画や道路建設の反対運動による自然保護運動の始まり、長蔵小屋のゴミ問題などによる環境意識の向上など、日本の自然保護活動を考えるうえでの象徴的な場所でもある。(林 清)
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補足情報

*高層湿原:低温・過湿で塩類の乏しい貧栄養の所にできる湿原。ミズゴケが多く、泥炭化が進んで盛り上がった所ができる。高山や高緯度地方に多い。
*浮島:池塘の緑の庇状になった部分が切断されたり、池塘底部の層がはがされて浮かんだり、あるいは浅い池塘で見られる底のつながった固定島が、水流の浸食作用によって底部が離れたりしてできる。
*拠水林:尾瀬ヶ原を流れるヨッピ川、六兵衛堀付近に見られる。川によって運ばれた土砂が河岸に堆積し、湿原にできるはずのない森林が形成される。これを拠水林という。
*尾瀬山の鼻ビジターセンター:尾瀬ヶ原の西端山ノ鼻に位置し、自然保護活動や情報発信をおこなっている。館内には職員が常駐し、尾瀬の概要のほか、日々のフィールド巡回で収集した季節ごとの見どころや登山道の状況等も紹介しており、スライドショーや自然観察会等を実施する日もある。鳩待峠から尾瀬ヶ原に入る人は、まずもってここに立ち寄って情報を得ていくと、見どころを見逃すこともなくなり、尾瀬の理解も深まる。
関連リンク 尾瀬檜枝岐温泉観光協会(WEBサイト)
参考文献 尾瀬檜枝岐温泉観光協会(WEBサイト)
尾瀬国立公園(環境省関東関東地方環境事務所)(WEBサイト)

2020年04月現在

※交通アクセスや料金等に関する情報は、関連リンクをご覧ください。

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