白水阿弥陀堂しらみずあみだどう

JR常磐線内郷駅の西へ約2km、経塚山に三方を囲まれ、南に白水川を望んで建つ。阿弥陀堂の前と左右には大きな池が囲い、浄土庭園が広がる。浄土庭園の中島には北岸の阿弥陀堂に渡るため、南北二本の橋が架けられている。
 藤原清衡の養娘徳姫(のちに徳尼)が、夫で「海道平氏」と称した岩城則道を弔うため1160(永暦元)年に建てたものと伝えられ、地方に現存する数少ない平安時代の阿弥陀堂建築*の一つである。方三間の宝形造、とち葺きで常行堂形式*をもち、屋根の勾配は緩やかで、内部には現在はほぼ失われているが、極楽浄土を描いた壁画などが施されていたという。復元した文様は阿弥陀堂内に掲示される。内陣には阿弥陀三尊と二天(持国天・多聞天)が安置されている。
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みどころ

五木寛之は『百寺巡礼』のなかで「白水阿弥陀堂の正面に立つと、その美しさに、あらためて胸を衝かれるような気がした。なめらかな屋根のライン、質素でありながら重厚なたたずまい。想像していた以上にすばらしいお堂である。建物は間口も奥行も三間で、約 5.45mにすぎない。その〝 小ささ〟という点でも、たしかに平泉の金色堂に通じるところがある。小さいにもかかわらず、存在感 が大きいのだ」と阿弥陀堂のたたずまいを称賛している。そのなかでも、とりわけ、とち葺きの屋根は伸びやかで優雅で美しい。
 阿弥陀堂は、かつてのきらびやかだったといわれる装飾は剥落したといわれるが、現在は、落ち着いたシックな色調の建物で、三方から迫る経塚山の緑との調和が素晴らしい。また、阿弥陀堂を囲む池が中心となる浄土式庭園も素晴らしく、「中尊寺ハス」と呼ばれるハスが見ごろとなる7月から8月にかけては、ピンクの花が周囲の緑に映え、壮麗だ。紅葉期や雪景色も良い。
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補足情報

*平安時代の阿弥陀堂建築:明治後期に書かれた『磐城史料』によれば、徳尼は「阿弥陀堂を建立し、亡夫則道の冥福を修す、構造故郷平泉の金色堂に摹(模)擬すと云ふ」とし、さらに「一説に徳尼故郷の平泉を慕ひ綣繾忘るる能はず。其居る所平と名づけ、又泉となづく、後隠棲の地を白水と名づく、即泉字を析き(切り分け)しなり」ともしている。
*常行堂型式:内陣で経をあげた後、念仏を唱えながら外陣をめぐる常行(修行法のひとつ)三昧のための様式。