朝日連峰あさひれんぽう

朝日連峰は、山形・新潟の県境に大朝日岳(1,871m)を主峰として、南北60km、東西30kmにわたって標高1,500m以上の山並み*が連なり、地質的には花崗岩と中古生層から成る褶曲山塊だ。周氷河地形や雪食地形*が見られ、大朝日岳の主稜線の東西で地形が大きく異なる非対称山稜を形成している。多雪地帯で植生は森林帯と高山帯の中間となる亜高山帯の針葉樹林がなく、1,500m 以上の標高ではミヤマナラ・ナナカマドなどの落葉低木や高山植物の群落がみられ、1,500m 以下ではブナの原生林が広がる。こうした自然環境のなか、動物の種類も多様でツキノワグマやカモシカをはじめ、イヌワシの他、クマタカやオオタカ、ハヤブサなどの鳥類、アサヒナガチビゴミムシに代表される昆虫類も豊富だ。頂上からは南に飯豊・磐梯、東に蔵王山、北に月山、鳥海と南東北の名山が並び、西には日本海を望むことができ、雄大な眺望が広がる。
 登山口としては、朝日鉱泉口、古寺鉱泉口のほかに西川町の大井沢口、鶴岡から入る大鳥泡滝口*、JR米坂線小国駅から入る小国口、長井市の野川口・葉山口・鮎貝口がある。
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みどころ

大朝日岳に限らず、朝日連峰は開発の手があまり入っていなかったことや、日本アルプスほどの標高はないものの、多雪地帯で気候が厳しいことから、山岳本来の姿がそのまま残っているといえよう。そのことが魅力ではあるが、一方、登山者には十分な登山計画と長時間の山行ができる体力と技術が求められる。
 深田久弥は日本百名山のなかで「鳥海山や岩手山のように、主峰だけが断然抜きんでているわけではないから、朝日の価値は連峰全体にある」と書きつつも、「平野から眺めて、連峰の左端に一際高く立っているピラミッド形の大朝日岳は、見紛うことのない顕著な存在である」とも、評している。また、最大のみどころだったのは「一点の雲もない快晴で、完全無欠の日の出を拝した。そして大朝日のピラミッドの影が日本海に大きく倒れているのを眺め」たことだったとも記している。この眺めに遭遇することは難しいかもしれないが、南東北の名山と日本海の大眺望がみどころであることは間違いない。
 新緑期もよいが、紅葉時期の稜線歩きは真っ赤なナナカマドの黄金色のカラマツが入り混じり、見事。(志賀 典人)
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補足情報

*1,500m以上の山並み:大朝日岳のほか、小朝日岳(1,648m)、平岩山(1,609m)、西朝日岳(1,814m)、寒江山(1,695m)、以東岳(1,771m)、竜門山(1,657m)など。
*周氷河地形:地中温度がつねに0℃以下となる永久凍土の分布地域、森林限界を越えた高山帯でみられる地形。地中温度が頻繁に0℃を上下するため、凍結、融解の繰り返しによって岩石は破砕され、雪融け水などによって流されてなだらかな斜面となる一方、凍結による破砕に抵抗性の強い岩石が周りから突出するような地形。(日本大百科全書(ニッポニカ))
*雪食地形:残雪または積雪層の移動によって生じる侵食作用によりできた地形。残雪が遅くまで残る雪渓や雪田の周辺部では、雪融け水が凍結、融解を繰り返すことによって岩石が破砕され、細かく砕かれた岩屑が雪融け水によって流されたり、雪融け水で飽和した表土がゆっくり流される。こうした雪食作用によって、雪渓、雪田のあるくぼみがしだいに拡大され、雪窪とよばれる凹地ができたもの。急な山地斜面では、斜面にたまった積雪層が雪崩落ちるときに表土をはぎとり、岩盤をえぐる侵食作用によってできた地形。(日本大百科全書(ニッポニカ)
*大鳥泡滝口:大鳥泡滝口の泡滝ダムから以東岳に向かう途中の北西斜面、標高960mほどのところに大鳥池がある。ヒメマス・イワナなどが生息し、釣りの名所でもある。北畔に大鳥池小屋があり、以東岳からの朝日岳縦走登山の基地となっている。
関連リンク あさひ旅のココロ(朝日町観光協会)(WEBサイト)
関連図書 深田久弥著『日本百名山』新潮社、『大辞林』三省堂(WEB版)、『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館(WEB版)、『平成26年度世界自然遺産候補地詳細調査検討業務報告書』環境省
参考文献 あさひ旅のココロ(朝日町観光協会)(WEBサイト)
やまがた山(山形県環境エネルギー部みどり自然課)(WEBサイト)
みちのく名峰めぐり 山形のやま旅(山形どまんなか探訪プロジェクト会議)(WEBサイト)
鶴岡市(WEBサイト)
国土地理院(WEBサイト)

2023年06月現在

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